MAGAZINES & PAPERS

Keikyoレポート『ビジネスコーチング』

部下と話しているときに沈黙してしまうことがあります。コーチングでよい方法はありますか。

2007/01/25

会話の途中で沈黙が訪れると、私たちは居心地の悪さを感じます。そこで沈黙を避けるように会話をしがちですが、実は、沈黙はコミュニケーションを豊かにするものです。

では、なぜ、沈黙すると居心地が悪いのでしょうか。理由のひとつは、自分が相手に与えている印象を崩さないよう、懸命になってしまうことにあります。沈黙するよりは話しているほうが、面白い人だ、いい人だ、頭の回転の速い人だ、と思ってもらえると期待してしまうのです。

理由のもう一つは、沈黙している間に相手が何を考えているのか、感じているのかが分からなくて不安になることにあります。

ですが、沈黙は相手を不安にさせるだけではなく、共感を生む力もあるのです。また、共感だけではなく、沈黙は、聞いた内容を咀嚼したり、次に作り出される物語の再編をしたり、頭の中を整理したりするのに使う時間になります。会話の中で、じっくり考えたいのなら黙っていてもよいのです。沈黙は会話の一つであり、有意義な時間です。沈黙がうまく取り入れられるようになれば、その方がむしろ、会話がクリエイティブなものになる可能性が高いのです。

そのためには、沈黙による居心地の悪さを拭い去る必要があります。効果的な方法は、「沈黙してもよい」ということを互いに了承することです。たとえば、相手が考え込んでしまい沈黙したときには「ゆっくり考えていいよ」と一声かけるのです。すると相手は沈黙を回避しようとする焦りを消すことができ、安心して考えるための時間を取ることができます。この一声で、沈黙を有効に取り入れることができるのです。

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私は部下から怖がられているようで、話しかけられることがほとんどありません。何かよい方法はありますか。

2007/02/01

人は誰しも、コミュニケーションを交わすときには緊張します。なぜなら、誰かと向き合うときには、自然な心の働きとして「この人は自分にとって安全か?」などの防衛意識が働くからです。

しかし、部下との関係が緊張したままだと、創造的なアイディアは出てきません。たとえば、新規プロジェクトで意見を出し合うときに、表面的な意見交換をするだけでは、実りのあるミーティングにはなりません。

そこで、普段から部下と安心感のある関係を作る必要があります。ここでは部下との間に安心感を醸成する有効なスキルとして「アイスブレイク」を紹介します。

アイスブレイクとは、文字通りに解釈すれば「氷を砕く」ことです。コーチングで使う際には「その場を打ち解けさせる」という意味があり、相手の防衛意識や緊張を解くことを目的としています。

アイスブレイクのポイントは、まずは相手に合わせることです。「私たちは同じ」だというメッセージは、相手の緊張をほぐすのにとても有効です。具体的には、同じ言葉を繰り返す、同じペースで話す、同じテーマに関心をもつ、などがあります。また、普段から、正論ばかりではなく、自分の気持ちを口にすることも部下の緊張を和らげます。「嬉しい」、「楽しい」、「ちょっと寂しい」など、気持ちを伝えていくのです。

更に、大事な会議やミーティングの前に一言声をかけるだけでも、相手に与える影響は違います。おそらく、部下が会議中に余計な思慮に思考を費やすことは軽減されるでしょう。ちょっとしたアイスブレイクが、部下と良好な関係を築く第一歩になります。

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部下とのかかわりでコーチングを活用したいのですが、具体的にどうすればよいのでしょうか。

2007/02/08

コーチングのスキルを知識として知っていても、実際に社内で効果的に活用しようと思うと難しいものです。果たして本当にコーチングになっているのかと、迷う人も少なくないかもしれません。

過去の原稿で、コーチングの基本的なスキルである「聞くスキル」と「話すスキル」のチェックリストを掲載しました。ここでは、コーチングを職場で活かし、部下育成に役立てるための、さらに踏み込んだチェックリストを紹介します。

以下は、組織内の現役コーチのためのチェックリストの一部ですが、リーダーとして、上司としての自分自身を振り返るときにも活用できるものです。

□ 部下に対してどのようなコミュニケーションをとっているか、客観的に観察することができる
□ 挨拶をするときは、相手の名前を呼んでいる
□ コーチングとティーチングの違いを理解し、場面に応じて使い分けることができる
□ 部下の考えを引き出すために効果的な質問をすることができる
□ 部下の目標に対して、いろいろな切り口から質問を投げかけることで、目標に対する部下の意識を深めることができる
□ 「質問する人」「答える人」と二極化させるのではなく、「一緒に考える」というスタンスをとることで、部下からより多くのことを引き出すことができる
□ 提案やアドバイスをするときは1回にひとつにしている
□ 部下に必要なだけ失敗する権利を与えている
□ 部下が行動を起こす前に会話をよくもち、部下が自分はサポートされていると思える状況をつくり出している

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質問をしてよい関係を築きたいと思ったのですが、部下に嫌な顔をされました。何が問題なのでしょうか。

2007/02/15

読者の中には、部下とよい関係を築くために質問でアイディアを引き出そうとしたが、うまくいかなかった、という人もいるかもしれません。効果的な質問をするのは実はとても難しいことです。本などで知った質問がよさそうだからといって、そのまま使っても機能するとは限りません。質問は「今ここ」で創るものだからです。

まず、「場」が読めなければなりません。周りに知らない人が大勢いる中でプライバシーに関する質問をされると人は不快に感じます。ですから、質問が機能する「場」を最初に創る必要があります。「場」が整わないうちは、大抵、質問をされても一般論で答えたり、いい加減な返事をしたりするものです。

更に、お互いの関係性も大切です。信頼関係が築かれていないところで、立ち入った質問をしても拒絶されます。「どうしてそんな質問に答えなければいけないのか」と思わせてしまうのです。質問される側に、この人には何でも話すことができる、この人の質問には答える価値がある、と思わせるような信頼関係を作ることが大切です。

最後に、質問の目的が何であるかが、質問をする側にも、それに答える側にも、わかる必要があります。新しいアイディアを考え出したいのか、同意をつくりだしたいのかなど、その質問の目的がシェアされていると効果的なコミュニケーションを交わすことができます。逆にそれがわからないと、された側は何に答えてよいのかわかりません。

質問をしても答えてもらえない場合には、「場」が読めているか、信頼関係ができているか、質問の目的が伝わっているかを、考えてみる必要があります。

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コーチングを用いた組織の活性化とはどのようなものですか。

2007/02/22

組織の中で、一人の上司がコーチングスキルを身につけることは、確かに意味のあることです。しかし、それだけで、組織の活性化にまでつなげることは困難です。組織を活性化したいと思うのであれば、組織の中のあらゆる関係においてコーチングを根付かせるための努力が必要です。

コーチングカルチャーのある組織とは、社員一人ひとりからリソース(資源)を最大限に引き出すことのできる組織です。そして、社員一人ひとりが互いの成長のために、自分のリソースを惜しみなく提供している組織でもあります。それも一方通行ではなく、双方向で行われています。たとえば、営業における成功事例や失敗事例を互いに教え合ったり、新しい商品のプレゼンテーションを互いにコーチしたりします。あるいは、パソコンやインターネットの使い方が分からないときには、仕事が終わってからパソコンの使い方を教えたりします。

互いに教え合うという関係は、その背景に安全が保障されていなければ実現しません。もし、過度に競争の激しいチームであれば、何かを教えてもらおうとするということが、自分の方が知識がない、経験が薄い、能力が低いということを露呈することを意味します。互いが教え合う、コーチし合うその背景には、信頼、協調の醸成があるのです。これらは、互いに教え合い、コーチし合うことによってもたらされるものです。

コーチング・カルチャーが根づくこととは、つまり、互いを信頼し、コーチできるようなカルチャーが定着していることです。これが組織を活性化し、生産性の高い組織を築くことにつながります。

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コーチングは部下だけでなく自分の成長のためにも使えるものですか。

2007/03/01

読者のみなさんの周囲には、「おやおや、まただ」と思わせる行動や発言をしている人がいませんか。私たちは、意識している、いないに関わらず、ワンパターンな行動や発言を繰り返しています。多くの人は、自分がどのようなパターンをもっているかを知りませんが、自分以外の人が決まったワンパターンな行動を取っていることには気づいています。

人は一つの考え方、やり方に支配されており、知らない間にさまざまな「前提」や「枠」をつくっています。この決まったパターンや枠組を「パラダイム」と呼びます。このパラダイムは、人との関係のつくり方や、問題にぶつかったときの対応方法に顕著に現れます。

私たちが同じ考え方、行動にこだわるのには理由があります。それは、少なくともここまでは、その方法でうまくいってきたからです。パラダイムを持っていること自体が問題だというのではありません。ですが、自分で正しいと思った方法でやっているのに成果があがらない、それなのにワンパターンな行動しか取れないというときには、そのパラダイムは本人の可能性を狭めてしまっています。

自分のもっているパラダイムを認識することを、コンフロンテーション(直面)と呼びます。自分のパラダイムとコンフロントするだけで、別の選択肢を考えることができるようになり、新しい方法を取り入れられるようになります。逆に、自分がうまくいかない方法を選んでいるという事実にコンフロントしない限り、行動も発言も変わりません。

コンフロンテーションは、自分を成長させ、行動の選択肢を増やして新たな可能性を開く効果的な方法です。

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コーチングは部下だけでなく自分の成長のためにも使えるものですか(その2)。

2007/03/08

コーチングでは、会話の相手に効果的な質問をしますが、自分自身への質問も、成長を促進させる重要なものです。自分への効果的な質問とは、パターン化しがちな考え方や行動に縛られず、視点を変え、新しい行動へ向かわせるような質問のことです。

障害にぶつかったりしたときに、「なぜ、こんなことをしてしまったんだろう?」と自問自答した経験がある人は、少なくないと思います。これは、実は自分を袋小路に追い込むような質問です。このような質問を自分に投げかけていたら、行動は萎縮するし、気もちも明るくなりません。

障害にぶつかったときにできる効果的な質問を紹介します。

たとえば、

「この問題の解決策を3つあげるとしたら、それは何か?」
「問題を解決するのにどの程度の時間をかけることができるか?」
「相談するとしたら、誰に相談するか?」
「この問題を解決できたら、自分にとってどんなよいことがあるだろうか?」

のような質問です。これは新たな解決策を見つけることを可能にします。

また、自分について新たな発見をもたらす質問や、仕事や将来へのモチベーションを高める質問もあります。「1年後に自分はどうなっていたいだろうか?」、「自分はどんな人として記憶されたいだろうか?」「仕事への熱意はどこから持ってくることができるだろうか?」などがあげられます。

自分に投げかける質問が変われば、行動も変わります。そして毎日効果的な質問をする習慣をつけておくと、飛躍的に行動を変容させることができます。効果的な質問を発見し追加していくたびに、行動の選択肢も広がるのです。

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コミュニケーションを円滑にするために効果的な方法はありますか。

2007/03/15

私たちは、同じ言葉を使いながら、実は別々のイメージをもってコミュニケーションしています。このことを「一般的不協和音」と言います。この不協和音が小さければ、コミュニケーションを円滑にすることができます。

たとえば、同じ言葉を聴いても「解釈」の仕方は、人それぞれ違います。「りんご」という言葉を聞いたときに、赤いりんごを想像する人もいれば、緑のりんご、あるいは、食べかけのりんごを想像する人もいます。りんごと桃の違いとなると共有しやすいのですが、自分の意図している「りんご」を相手に同じようにイメージさせるのは、簡単なことではありません。人はものごとを自分の見たいように見て、聞きたいように聞いているからです。同じイメージをもつためには、次のプロセスが必要です。

まず、相手に「りんご」と言ったら、どのようなりんごをイメージするかを聞く必要があります。次に、自分のイメージするりんごはどのようなものなのかを伝えます。最後に、自分の伝えたりんごのイメージをリフレイン(繰り返し)してもらうことが重要です。このやりとりのなかで、言葉に対するイメージの微細な違いを埋め、最終的に同じ絵を共有することが大切です。

普段から「仕事」について、「利益」について、「チームワーク」について、イメージが共有されていると、職場でのコミュニケーションが円滑になります。言葉から想起するものの誤解が少なくなり、協力関係を築きやすくなるからです。それぞれが使っている言葉とその意味を共有し不協和音を減らしておくこと、それがコミュニケーションを円滑にするポイントです。

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コーチングの今後について教えてください(その1)。

2007/03/22

日本では、コーチングはまだ最近のものというイメージがあるかもしれませんが、アメリカでは一般用語ですし、多くの企業がコーチングを導入しています。アメリカでは、コーチはインターナル(社内)コーチとエクスターナル(社外)コーチに分かれていて、自社にインターナル・コーチを何百人も作ろうとしている会社がたくさん出てきています。

更に、アメリカでは「コーチングとは何か」というところから、「コーチングをどのように使うか」、「どのような効果をもたらすか」へと意識の焦点が変わってきています。つまり、コーチングとは、「コーチングをする」だけのビジネスではなく、業績向上や目標達成のような具体的なビジネスインパクトを生み出すものへと認識が変わってきているのです。このような動きは日本でも見られます。インターナル・コーチを積極的に育成しようとする会社が増えていますし、コーチングから具体的なビジネスインパクトを得ようとする動きも活発になってきています。

ビジネスインパクトを生み出すためには、コーチングでどのようなベネフィットが生まれるのかを事前にはっきりさせておくことが重要です。目的によっては、ティーチングなどの他の方法が有効な場合もあるかもしれません。コーチングが本当に必要なのかも含めて事前に検証し、あらかじめ効果を想定しておくことです。それがコーチングの効果を高めます。

このように、コーチングは今後ビジネス上の有効なスキルとして更に多くの会社に広がり、それに伴い、コーチングはビジネスインパクトに対して責任を持つようになると考えられます。

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コーチングの今後について教えてください(その2)。

2007/03/29

前コーチングとは、人との関係を築く能力を上げることで、ビジネスインパクトをもたらす関係構築スキルのことです。なぜ関係構築スキルが大切なのかというと、私たちはたくさんの経験や知識や能力などのリソースをもっており、それを十分に活かせるかどうかは、職場でよい関係を構築できるかどうかにかかっているからです。よい関係を築くことが出来れば、個人の持っているリソースを最大限に活用できるようになり、それが組織全体の利益に直結していくのです。

関係性を築く能力とは、当連載で述べてきた「聞く能力」や「効果的な質問をする能力」、「部下からのリクエストを引き出す能力」であり、10人の人に10通りの対応ができるような「個別対応(テーラーメイド)能力」のことです。これらの習得を通して関係構築能力を高めることができます。

上司が部下とうまく関係を築く能力が上がると、職場の雰囲気がよくなり、さまざまな効果がもたらされるようになります。たとえば、問題が大きな問題になる前に報告が上がってくるようになったり、日々の業務を改善するために部下からの提案が上がってくるようになったり、あるいは会議で建設的な意見が出てくるようになるのです。それが中長期的には、業績の向上や離職率の低下につながります。

関係構築スキルという観点から見ると、コーチングはあらゆる組織のあらゆる場面で活用できます。必要に応じてコンサルティングや何らかのシステムと組合せることも効果的です。

コーチングは万能というわけではありませんが、非常に広い場面で活用できる大きな可能性を秘めたスキルなのです。

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