Keikyoレポート『ビジネスコーチング』
部下の能力を上げたいと思っています。コーチングでできることはありますか。
2006/11/09
部下は目に見えるよりもたくさんの能力を、部下自身の内側にもっています。過去の成功体験や知識、もっている資質、ネットワークなど、その人が内側にもっているもののことをリソース(資源)と呼びます。それらに目を向ける機会がなかったり、気がついていなかったりするために、本人がリソースを活用できないでいる場合が多くあります。
リソースについて話す機会があると、部下はリソースをうまく使うことができるようになります。上司が外側から無理に何かを与えるよりは、部下のこれまでの経験や知識を使えるものにする方が、ずっと機能的です。目標を達成するための一番の近道であるといっても過言ではありません。
では、部下のリソースを引き出すためにはどうすればよいのでしょうか。それは、質問をして部下に過去の経験から使えるものを発見させることです。たとえば、次のような質問が考えられます。
「一番最近、目標を達成したのはいつか」
「目標を達成するために、どんな準備をしたか」
「それを実現するために一番大切なものは何だと思うか」
これらの質問を通して、部下は本人が持っているリソースにアクセスすることができます。
特に、部下が目標に向かって行動を起こす前に、リソースを扱うと一層効果的です。目標を達成する際のビジョンが明らかになると同時に、過去の成功体験や持っている資質の活用方法が明確になるからです。それは、未来を予測するための重要な情報にもなります。
たくさんの部下のリソースを発掘すること、それが結果的に組織全体の目標達成能力を高めることになるのです。
部下の能力を引き上げるために、部下の強みを引き出すことも方法のひとつかと思いますが。
2006/11/16
前回、部下の能力を上げるためにリソース(資源)を引き出すことについて書きましたが、部下の能力を上げるためには、部下の強みを見つけること、そして引き出すことが効果的です。リソースとはその人の強みそのものです。
上司の多くは自分のやり方を押しつけてしまいます。そして部下の多くは、自分の一番やりやすい方法を知らずに、言われるがままに仕事をしているケースが多くみられます。ですが、最も効果的な方法は本人の中にあります。上司は部下のもっている強みを最大限に引き出したり、あるいは本人が気付いていない強みを部下に気付かせたりすることで、部下の能力を上げることができます。
部下の強みを引き出すためには、まず、部下をよく観察することです。仕事の進め方、他の人とのコミュニケーションなどを観察していると、「仕事が速い」、「提案が多い」など、部下の強みを見出すことができます。部下の強みを見つけて、それを確認するために会話をするのも効果的です。「君の強みは粘り強さだと思うけど、君はどう思っている?」。部下は自分の強みを考える時間を持つことができます。
また、強みを引き出すような質問もできます。たとえば次のような質問は、部下が蓄積してきた強みを引き出すものです。
「プロジェクトを成し遂げる過程で何を学んだか」
「実現するために一番大切なものは何だと思ったか」
「失敗や挫折を経験したことがあると思うが、それをどのように乗り越えてきたか」
部下の強みを引き出すことは上司と部下の関係に安心感を築き、部下の行動を促進する最も効果的な方法のひとつです。
部下の能力を上げるには、成長する機会を与えることも大事ですね。
2006/11/30
部下の能力を上げるには、成長する機会を与えることです。部下が成長するかどうかは、部下の能力の状況に合わせた学習の機会があるどうかどうかで決まります。
仮に意欲が高く、能力も高い社員でも、難易度の高い仕事に挑戦すれば、失敗することがあります。そんなときに多くの上司は「頑張れ、君ならできるはずだ」と、彼らの意欲に働きかけようとします。あるいは「もうちょっと努力すれば、できるよ」と、努力を求めたりします。しかしこれでは、部下にとっては、今後何をすればよいのかが分かりません。
彼らに必要なのは、意欲や努力に働きかけ励ますことではなく、能力を高めることなのです。やる気はもともとあるのだから、そこに働きかけても意味がありません。上司がすべきことは、部下と一緒に彼らの能力やスキルを棚卸しし、その仕事をするのに何が足りなかったのかを明らかにすることです。そして、それを身につけることができる学習の機会を与えることです。
そういった現実的な対応をせずに、意欲や努力にばかり働きかけても、部下は成長することはありません。逆に、自分の能力に疑いをもったまま、やがて意欲も低下する可能性もあります。
このようなケースは日常でよく起こりうることです。私たちは相手に対して、何をするのかを明確にせずに、努力や頑張りを強いてしまうことがよくあります。ですが、努力は強要するものではありません。仕事の楽しさや面白さを実感したときに、自ら努力したいと思ってするものなのです。部下に成長の機会を与え、努力したくなる状態を作り出すこと、それが上司の仕事です。
壁にぶつかって悩んでいる部下がいます。手助けをしたいのですが、効果的なかかわり方はありますか(その1)。
2006/12/07
壁にぶつかって悩んでいる部下を見ると、つい口を挟みたくなるかもしれません。ですが、こういうときこそ、本人が自分でその問題に取り組めるように考えさせることが重要です。効果的な方法として、「視点を移動させる」というものがあります。同じ一つの問題でも、視点の高さや角度を変えるだけで、全く違う解決法が見えることがあります。これが次の一手を探す手がかりになります。
視点を移動させる方法としては、「アソシエーション」と「ディソシエーション」があります。問題にぶつかって解決策が見あたらず、八方塞りな気持ちになるようなときには、「ディソシエーション」が有効です。
ディソシエーションとは、心と行動(体)が分離している状態です。何かをしていて、ふとした瞬間、醒めてしまい、その状況を遠く離れたところから眺めた経験はありませんか。意識的にこのような状態を作り出し、問題をちょっと離れたところから見ることで、ゆとりを作るのです。ゆとりが他の選択肢を見つけることを可能にします。
ディソシエーションの方法としては、自分を外から見るような質問を繰り返すことが有効です。
「それを見ているときの自分の気もちはどうだろう?」
「どんな表情をしているだろうか?」
「どんなことを聞いていて、どんなふうに感じているだろうか?」
などの質問に答えていくことです。すると、現在向き合っている問題に対して距離を取ることができ、新しい解決策を思いつくことができるのです。
次回の連載では、視点を移動させるもう一つの方法として、アソシエーションを紹介したいと思います。
壁にぶつかって悩んでいる部下がいます。手助けをしたいのですが、効果的なかかわり方はありますか(その2)。
2006/12/14
前回の原稿では、「視点を移動させる」方法として「ディソシエーション」を紹介しました。今回は、逆の働きをする「アソシエーション」について説明します。アソシエーションとは、心と行動(体)が一体になり、夢中になっている状態のことです。何もかもを忘れて「楽しい」「嬉しい」と感じられる状態のことでもあり、逆に、ある問題に集中しすぎて動けない状態のことも指します。
壁にぶつかった部下に対して、成功体験にアソシエートさせることは有効です。成功体験をリアルに思い出すことができれば、困難に向かって行動を起こし、それを乗り越えるための勇気を手に入れることができるからです。また、ヴィジョンにアソシエートさせることも効果的です。なぜなら、自分が思い描いているヴィジョンを強く意識することで、目の前の壁がヴィジョン実現のためのステップになるからです。
アソシエーションの方法は二つあります。まず、頭の中のイメージを、具体的にビジュアル化することです。見た感じ、景色、におい、感触などをできるだけ明確にします。次に、自分自身が、その映像のなかに溶け込んでいくことをイメージして行動します。
前回からディソシエーションとアソシエーションについて説明してきましたが、大切なのは両者の「スイッチ」をうまく切り替えることです。そうすることで、楽しいときにはアソシエートしてとことん楽しむことができますし、苦しいときにはディソシエートして打開策を見つけることができます。普段から自分がどちらの傾向になりやすいかを意識しておくと、スイッチの切り替えが容易になります。
部下が指示通りに動いてくれません。動いてもらうようにするにはどうしたらいいですか。
2006/12/21
職場で指示をしたあと、部下の行動がすぐに変わらなくていらいらした経験をもつ人は少なくないと思います。部下が指示通りに動いてくれない場合、考えられるのは期待や要望を一方的に発信しているということです。一方的な期待や要望は、人を動かすどころか、むしろ動けなくしてしまいます。
人間の細胞はコミュニケーションを交わしていますが、細胞はたったひとつの情報を与え続けると、「アナジー」という状態に陥ってしまうのです。「アナジー」とは、簡単に言えば動けなくなる状態のことで、たった一つの情報では判断ができなくなり、ショックで活動を停止してしまうのです。頭では動こうと思いながらも、体が動かない状態です。
では、動いてもらうためにはどうすればよいのでしょうか。伝えたい情報のほかに、別の情報も一緒に送ることが大切です。この一緒に伝える情報のことをセカンドシグナルと呼んでいます。効果的なセカンドシグナルとは、日常のコミュニケーションの中で相手に「大切な人だ」というメッセージを伝えることです。
たとえば、次のような声かけがあります。「あなたは私たちにとって大切な人材だ」「あなたと仕事ができて嬉しい」「あなたがいてくれるから、スムーズに働ける」などです。こうしたセカンドシグナルを日頃から送っていると、期待や要求が急なものであっても、部下はすぐに行動に移せます。あなたが自分の味方であり、好意的に感じているのだと、部下は知っているからです。
そこで、部下が動きやすい職場を作るためには、日頃からセカンドシグナルを送り続けていることが重要です。
部下の仕事のスピードが遅くなっていると感じています。原因として考えられることはありますか。
2006/12/28
部下の仕事のスピードが遅くなっているとき、原因の一つとして考えられるのは、「未完了」がたくさん溜まっているということです。この未完了を完了させると、速く動けるようになります。
未完了とは、たとえば、期限までに終えなければならない仕事を先延ばしにしている、言いたいことがあるのに伝えられていない、Eメールの返事をしていない、というような、一つひとつは何気ないことです。ですが放置したり、たくさん溜まったりすると、大きな気がかりになります。
未完了を抱えてしまうと、自分では気がついていませんが、気がかりを解決するために、いつも頭が回転している状態が続いてしまいます。それが次第にストレスになっていきます。
未完了を一つひとつ片付けていくと、次第に心が軽くなります。これを「未完了を完了させる」といいます。たとえば先延ばしにしていた仕事を一つ完了させると、すがすがしい感じになります。未完了を完了させていくとエネルギーが上がります。その結果、行動を起こす原動力が生まれるのです。
未完了は、コミュニケーションでも同じことがいえます。コミュニケーションは、Aという相手が話して、Bという相手が聞き、それをもう一度相手に戻したときに完了します。たとえば、話の途中で電話がかかってきて部下との会話が中断されたとします。中断されたままにしておくと、それが未完了になります。電話が終わった後で「さっき話した内容で大丈夫だった?」と声をかけると、もっと話す必要がある場合には話の続きができます。コミュニケーションをきちんと完了することが大切です。
部下の発言を増やしたいと考えています。そのために何かできることはありますか。
2007/01/04
会議の席上で、上司が「正直に話しなさい」と言っても、部下が本当に正直に話をすることはほとんどありません。思ったことを正直に言うと、どうなるか分からないからです。そこで部下は上司が望むような話をしたり、適当な話をしてその場を繕ったりします。これは、実は、普段から、上司が部下に自分の望む答えを期待しているから見られるものなのです。
たとえば、上司が「元気か?」と聞けば、部下は「はい」と答え、「仕事は順調か?」と聞かれても、やはり「はい」と答えます。上司のする質問の多くが、部下に「イエス」を言わせるためのものになってしまっているのです。
また、上司が「最近、私の言っていることがちゃんと聞かれていないように思うんだけど、どうだろう?」と言えば、部下は「いえ、そんなことはありませんよ」と答えます。このような質問は、上司が自分の求めている答えに部下を誘導してしまうものなのです。
このようなやり取りの中で部下は学習してしまいます。「適当に答えておこう」、「当たり障りのないことを答えておこう」。結局、上司は部下に、いいようにあしらわれるようになってしまうのです。
では、どうすれば部下に正直に話をしてもらえるようになるのでしょうか。
大切なのは、質問に相手がどんな答えを返してきたとしても、「質問に答えてくれてありがとう」というスタンスを伝えることです。もちろん、毎回言葉にする必要はありませんが、その気持ちを伝えるような表情をすることはできます。これを伝えることで、質問に対して伸び伸びと、自由でいられるような雰囲気づくりができるのです。
部下は、発言はするのですが行動が伴いません。行動してもらうためにはどうすればよいですか。
2007/01/11
知識と行動の間には深い溝があります。頭で「わかった」ことが、必ずしも行動に移せるわけではありません。知識と行動の間にある溝をいかに越えるか、それは組織にとって優先順位の高い課題です。なぜなら、利益は理解によって生まれるのではなく、行動によって生まれるものだからです。
ときに、会議などの場でスマートな発言をしたり、多くの提案をしたりする社員が優秀だと思われることがありますが、そうした社員が実際に行動しているかどうかを見てみると、そうとは限りません。発言量と仕事の能力は別です。複雑な用語やアイディア、プロセスが、単純な行動より優れているわけでありません。優秀かどうかは、実際にどのくらい行動を起こしているかで判断されるべきでしょう。
では、どうすれば行動することを定着させることができるのでしょうか。まず、意思決定の場にできるだけ多くの部下が参加できる場をつくることが大切です。「マネジャーは考える人、部下は動く人」という二極化を避けるのです。マネジャー自身もできるだけ率先して行動し、チームのモデルとなるようにします。そして、話し合いの結果が実行されているかどうかも確認しフォローします。
普段から、部下一人ひとりが、どのような動機で行動を起こすのかを観察し、それを元に動機づけを行うことも大切です。そして、部下自身にもどうやったら動けるようになるのかを考えさせます。また、行動を起こした部下にはそれをアクノレッジ(承認)することです。すると、チーム全体に、行動することに価値があるという意識を根付かせることができます。
いくら働きかけても、部下の行動がどうしても変わりません。何かよい方法はありませんか。
2007/01/18
前回の連載では、利益は理解によってではなく行動によって生まれること、だからこそ、「行動することに価値がある」という意識を、チームに根付かせることが重要だと書きました。ですが、人にはどうしても行動できないときもあります。
たとえば、健康状態がよくない場合はどうでしょうか。また、人間関係がうまく築けず、チームメイトと一緒にやっていくことが難しい場合はどうでしょう。このような場合には、行動を起こすためのベースが整っていないので、動けません。そこで行動そのものではなく、行動するためのベースを整えることに焦点を当てる必要があります。
ベースが整っているかどうかを確認するためには、相手の全容をチェックすることが大切です。ここでは、コーチングで相手の全容を捉える際に用いる質問を紹介します。
1.仕事のスキルを測る質問
「現在の仕事のスキルに点数をつけるとしたら何点くらいですか?」
2.コミュニケーション能力を測る質問
「あなたは人にどのくらい自由にものを言わせていると思いますか?」
3.健康状態をはっきりさせる質問
「夜は何時に寝て、朝は何時に起きていますか?」
4.マネジメント能力を測る質問
「あなたにとって目標管理とはどういうことですか?」
5.人間関係について棚卸しする質問
「あなたが苦手だと思うのはどんな人ですか?」
6.趣味や気分転換の方法について聞く質問
「どんな気分転換の方法をもっていますか? 」
などがあります。
行動するためのベースが整っているかどうかを確認し、それをサポートすること、これが行動を促進します。