MAGAZINES & PAPERS

Keikyoレポート『ビジネスコーチング』

コーチングを職場に導入すると、どのようなメリットがありますか(その3)。

2006/08/31

職場にコーチングを導入するメリットとして、今回は組織の中に「要求を増やす」ことの重要性について取り上げたいと思います。

「要求を増やす」ことで最も注目すべきなのは、部下の「不平、不満を要求に変える」ことです。実は、部下が不平、不満を言う背景には、要望を口にできないことが原因になっていることがよくあります。そのような場合に、不平、不満そのものを取り扱うのではなく、部下の要望を直接聞き出すことが重要です。

たとえば「仕事が多すぎる」との不満を言ってきた部下に、「何かしてほしいことはある?」、「してほしくないことはある?」と聞くことです。そう聞かれると「この作業を分業して欲しい」などと答えることができます。実はここで出てきた内容が、不満を言っているときには「言葉にできていない要求」なのです。要求まで聞き出した上で対応した方が、解決が早く図れます。

同時に、上司から部下へ毅然と要求することも重要です。部下が会社を辞める理由のひとつに「上司が自分に何を望んでいるかがわからないから」という言葉を耳にすることがあります。遠回しな話や、正論だけでは、部下は混乱してしまいます。そこで上司が部下に毅然と要求することが求められています。要求とは指示命令ではありません。そこで要求が部下に受け入れられない場合もありますが、それも了解した上で、要求することが上司には求められています。

上司も部下も互いに「要求を増やす」ことのできる組織は、コミュニケーションでの混乱を避けることができ、更に仕事へのモチベーションを高めることができます。

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コーチングを職場に導入すると、どのようなメリットがありますか(その4)。

2006/09/07

コーチングを用いると、部下の目標達成能力を上げることが可能です。なぜなら、部下が自発的に目標を捉えることができるようになるからです。目標を達成するためのエネルギーは、その目標を「〜しなければならないこと(have to)」として捉えるのではなく、「〜したいこと(want to)」として捉えたときに生まれます。

部下に目標を達成させるために、達成したら「給料が上がる」といったお金の力を利用することがあります。また、うまくいかなくなると「やることはやっているのか?」と問い詰めたり、「一度決めたことだからやりとおせ」と叱咤激励するなど、外側からの力で動かそうとします。確かに、お金でも、励ましの言葉でも、人を動かすことはできるでしょう。

しかし、ゴールを達成するためには、こうした外側からの力だけではなく、その人自身の内側からの原動力が必要です。「したい」という情熱が努力を引き出し、自発的に目標に行き着かせることになるのです。つまり、部下の「したい」という気持ちを引き出すことさえできれば、部下の目標達成能力は自動的に高まるのです。

また、「したい」ことを考えることは、仕事の質の向上にもつながります。たとえば、サービスに定評のある某ホテルのマネージャーは、部下に「お客様にどんなサービスを提供したいか」について、一時間半以上議論させました。その結果、サービスについて何も教えていないにも関わらず、部下にはサービスマインドが醸成されました。部下の「提供したいサービス」という自発性が引き出され、そこでサービスの質が向上したのです。

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部下と良好な関係を作るために、職場で使えるスキルはありますか。

2006/09/14

部下と良好な関係をつくるには、部下についてよく知ること、つまり部下ひとり一人のデータベースをもつことが有効です。部下について、年齢やどこに住んでいるか、家族構成など、私たちは基本的な情報を案外知らないものです。

相手についての情報をもてばもつほど、コミュニケーションのとり方の選択肢が増えます。たとえば、「部下がどんな価値観をもっているか」、「ものごとを判断するときに何を重視しているか」、「上司に知っておいてほしいと思っていることは何か」、「将来の個人的なヴィジョンは何か」について知っていると、会話自体が弾みます。それだけではなく、仕事の依頼の仕方を変えたり、個人のヴィジョンと今の仕事とのリンクに気付かせたりすることで、部下のやる気や能力、可能性を引き出すことができます。

部下について知っていると効果的な、蓄積したいデータについては、主に4つのカテゴリーに分けて考えることができます。それは、1.部下のスキル、2.もっているタスク、3.健康状態や趣味などの個人的な情報、そして4.ヴィジョンです。データの集め方としては、面談などで質問してもよいのですが、普段何気なく交わす会話や部下の行動を観察することから、情報を蓄積することが重要です。

部下についてのデータベースは、作ってしまったら終わりというものではありません。部下は、毎日成長しています。部下の情報は「知っている」ことに価値をおくよりは、データベースを更新するつもりで関わる姿勢の方が大切です。部下を知るために観察し、質問をするプロセスの中で、上司と部下の間に良好な信頼関係が築かれるのです。

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そもそも、職場でのコミュニケーションは重要なのですか。

2006/09/21

コミュニケーションが重要なのは、組織において「価値を生み出す」からです。ですが、このことはあまり認識されていません。たとえば「コミュニケーションは確かに大事だが、その前に、生産性、テクノロジー、商品開発、デザイン、社内のインフラの問題を考える方が優先順位が高い」と思う人の方が多いのではないでしょうか。あるいはコミュニケーションは「空気のように自然で、あたりまえのもの」として特に意識していない人も多いでしょう。

ですが、コミュニケーションは積極的に価値を生み出すものです。離職率が高かったある組織では、部課長全員が「聞く能力」を上げるためのコーチングを受けて、離職率を5分の1に減らすことに成功しました。また、別の組織では経営者が2時間の会議で1時間55分話し続けていたのですが、コーチングを受けて自分の発言時間を30分に制限し、他の取締役の発言を促すようになりました。これはその後の業績に大きく影響しています。

更に、ある組織では人事評価のシステムを導入したものの、上司の面談する能力が低いために社員のモチベーションが落ちてしまいました。そこで上司の面談のスキルを上げるために、部下の自己評価と上司の部下に対する評価を比べ、その違いについて部下が思っていることを聞き、上司も伝えるという機会を設けました。それにより、上司と部下の間で目標に対する合意を形成することができ、部下に次に目指したい目標が見えるようになりました。

これらは何気ないことですが、戦略的なコミュニケーションは確かに価値を生み出しています。

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コーチングを使ったマネジメントのよさはどこにあるのでしょうか。

2006/09/28

コーチングを使ったマネジメントのよさは、自律した、創造性のある人材を生み出せることにあります。かつては組織で評価される人とは「指示通りにきちんと仕事のやれる人」でしたが、今、企業が求めている人材とは、「自分で考え、選択し、自分から行動を起こし、自分で評価できる」人材です。なぜなら、変化が早く、予測がつかず、前例がない、そういう時代の中で、上司の指示を待っていては不測事態に対応できないからです。

では、コーチングによるマネジメントは、なぜ自律した創造性のある人材を育てるのでしょうか。それは、管理でも放任でもなく、部下が自分で考え、選択し、行動を起こし、評価ができるように、上司が関わるからです。上司は部下と緩やかな会話を交わし、部下に自分の行動や目標を考えさせ、決断させ、どこで失敗したのかについて振り返らせます。

ここで「上司と部下が会話を交わすこと」は、「部下が自分自身で考えること」と同じくらい重要です。会話を交わすことは、「あなたを仲間の一員だと思っている」、「あなたは大切な存在だ」というメッセージを伝えることになり、部下を生身の人として受け入れることにつながります。この生身の人間として受け入れられる感覚は、信頼関係を築き、部下のポテンシャルを最大限に引き出すために非常に重要です。

不測事態においては、指示命令型のマネジメントが必要な場合もあります。ですが、「会話をし、部下に考えさせる」、一見遠回りに見えるコーチング型マネジメントは、組織の対応力やスピード力、そして個人の能力を最大限に高めるマネジメントなのです。

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コーチングだけではなくティーチングも重要だと思うのですが、ティーチングには何か問題があるのですか。

2006/10/05

コーチングは万能ではなく、あくまでも選択肢の一つです。状況に応じて指示命令やティーチングなど、いろいろな方法を使い分けることが求められています。ただ、ティーチングのみでは問題が生じると考えています。

ティーチングのみでは、第一に、教えられる側が教える人のレベルを超えることができません。あるリサーチで「部下があなたを追い越しても構いませんか」と上司に聞くと、多くの上司は「どんどん追い越して構わない」と答えました。次に、部下に「あなたが上司を追い越しても問題なさそうに見えますか?」と尋ねると、ほとんどの部下は「追い越してはまずい」と答えました。しかし、上司を追い越す部下が出ない限り会社は発展しません。

第二に、教えられる側が教え方まで踏襲してしまうことです。たとえば、「こんなやり方では駄目だ」と言われながら仕事を教えられた人は、自分の部下にも「こんなやり方では駄目だ」と言いながら教えてしまいがちです。「そのやり方もあるね」とまず受け止める方法も選択肢としてはあるわけですが、強く意識しない限り、「こんなやり方では駄目だ」と口をついて出てきてしまうのです。

第三に、ティーチングをしても相手の中に内容が残らない、そもそも相手がティーチングに耳も傾けないケースが多いことが問題です。たとえば、上司としては部下に同じ間違いを繰り返して欲しくないからティーチングをするわけですが、その内容が部下の中に残らなければ、部下はまた同じ間違いを繰り返します。同じ間違いを繰り返すのでそれをまた上司が叱る、という悪循環ができてしまうのです。

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コーチングとティーチングの使い分けのポイントはありますか。

2006/10/12

前回の原稿でも書きましたが、コーチングは決して万能ではないので、ティーチングや指示命令と併せてて使い分けることが求められています。スピードのみを求められる状況においては、指示や命令が機能するでしょう。また、経験の浅い社員に対しては、ティーチングの方が機能します。

コーチングとティーチング、あるいは指示命令のどれがふさわしいかは、対象となる人物がおかれた状況でのリスクと、その人の仕事の能力から判断することができます。大きく分けて次の4つのパターンが考えられます。タスク毎にどのパターンに当てはまるのかを考えることが重要です。

1.リスクが高い職務で、対象者が高い技術や能力をもっているとき

具体的にはマネジャーや経営者が当てはまります。コーチングが、最も必要で、また機能する領域でもあります。

2.リスクが低い職務で、対象者が高い技術や能力をもっているとき

基本的にコーチングもティーチングも必要ありません。本人たちにまかせてよい領域です。

3.リスクが高い職務で、対象者が技術的には低い能力をもっているとき

経験の浅い、若手のスタッフに大きな仕事を任せる場合が考えられます。この場合には、上司や経験者がティーチングするほうが現実的ですし、機能します。

4.リスクが低い職務で、対象者が技術的には低い能力をもっているとき

新入社員に対するOJTなどがあてはまります。本人の自発的な行動を促し、自ら考え、自ら行動できる人材に育成するために、コーチングが機能します。ただし、スピードが求められるときには、指示や指導の方が効果的な場合もあります。

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職場のモチベーションを上げるために、コーチングで何かできますか。

2006/10/19

モチベーションをあげるためにできることは、大きく分けて三つあります。一つは、職場におけるルールとポリシーを明らかにすることです。ルールをつくればよいというものではありませんが、誰しも、枠組みがはっきりし、何をすべきかが明確で、すべての人が公平に扱われる職場を望んでいます。逆を言えば、そうでない職場は、それだけで社員のやる気を失わせます。

二つ目の方法は、部下を巻き込むことです。情報をシェアし、部下の意見を聞く姿勢が大切です。もっと大切なのは、一方通行にしないことです。つまり、意見を吸い上げるだけでなく、吸い上げた意見についてどうしたのかをきちんと返していくのです。それがないと、部下は上司に対する信頼を失い、却って逆効果となりかねません。 双方向のコミュニケーションのキャッチボールをたくさんつくることが、会社全体のモチベーションをあげるベースになります。

三つ目の方法は、モチベーションを維持するメカニズムを整えることです。そのためには、社員の学習の意欲を持続させることです。まず、部下との会話の中でヴィジョンをはっきりさせることが大切です。ヴィジョンが明らかになると、現在の業務が将来に対してどのような学びを与えてくれているのかが分かり、部下のモチベーションが高まります。また、社員自身が学習の効果を実感することや、どの程度身についているかを自分で確認できることも、やる気を高めます。そのためには、学習の効果を測る方法や基準を明確にすることです。ステップアップの道筋が分かり、達成度合いを確認することができるので有効です。

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リーダーシップを上げるためにコーチングでできることはありますか。

2006/10/26

リーダーとしての振る舞いは、表情やコミュニケーションを変えるだけでも随分変わります。リーダーシップを身につけるためには、コーチをつけると効果的ですが、ここでは、自分でセルフコーチングをするのに着目するとよい項目を紹介したいと思います。

まず、リーダーの朝の登場で、その日の職場の雰囲気が決まるといっても過言ではありません。笑顔で挨拶をしているか、歩き方や姿勢はどうか、声の調子はどうか、意識してみてください。リーダーの与える印象は部下に影響を与えています。

また、部下との会話では、やる気を引き出すシンプルで力強い言葉を使うとよいです。たとえば、「お願いします」「ありがとう」「よくやったね」などはシンプルで力強い言葉です。そして、よいことだけでなく、好ましくないことについてもきちんと伝えることです。問題言及がなされないことは、部下のモチベーションを下げてしまいます。

更に、部下と話をするときには、部下が何を求められているのかを理解しているかどうかを見る必要があります。期待と違う結果が出たときは、間違って伝わったということです。それは伝えた側の責任です。言いたいことが伝わったかどうか、最後に確認をする姿勢が大切です。

一日の中で、部下一人ひとりのために時間をつくることも大切です。その際には、部下の成長に焦点を当て、部下が求めている変化について話し、経験やリスクについて勇気づけをします。

最後に、リーダーは明確な展望を示す必要があります。チームの方向性やゴールをシェアでき、ゴールが明確であるほど、部下は行動しやすくなります。

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経営者にコーチをつけるメリットは何ですか。

2006/11/02

日本では、コーチングというと「部下育成のスキル」というイメージが強くあるかもしれません。しかし、コーチングが必要なのは、部下だけではありません。経営者にもコーチングはとても有効です。

まず、コーチングは明確な目標を持つ人に機能します。会社を経営している経営者には、業績を上げ、会社を成長させるという明確な目標があります。そこでコーチングが機能しやすく、その有効性を体感しやすいのです。

また、コーチは、経営者にとってはブレインストーミングの相手になります。経営が独善的にならないためにも、複数の視点をもたらしてくれるコーチとのやり取りは役に立ちます。対等の立場でオープンに意見を言い合える相手として、自分の頭を整理することが可能になります。

更に、コーチとヴィジョンについて話し、明確にアウトプットする機会をもつことは、経営者にとって非常に有意義です。ぼんやりとしたヴィジョンをもっていても、それを言葉に表せるほど明確にしている経営者は、実は少ないものです。ですが、会社を経営していくうえで、将来に向けての明確なヴィジョンは欠かすことができません。もちろんヴィジョンがなくても、会社は動いていきますが、成功している会社には、必ずといってよいほど明確なヴィジョンがあります。コーチがつくと経営者のヴィジョンを明確にすることができます。

コーチは、何かを教えてくれる人でも、頼るべき相手でもありません。主体性がなければ、コーチを活かしきることはできません。だからこそ、主体性をもつ経営者にとって、コーチは意味のある存在になり得るのです。

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