Keikyoレポート『ビジネスコーチング』
コーチをつける場合に効果が高い領域やテーマはありますか。
2006/06/22
ビジネスマンにコーチがつくメリットは、多角的なものの見方ができるようになることにあります。最近は医者、会計士、弁護士の中にもコーチをつける人が増えていますが、これは、たとえ専門の資格があっても病院や事務所などを経営するためには、別の能力が求められるからです。複数の考え方や視点を盛り込んで情報を咀嚼し、戦略を考えるためにコーチをつけるのです。
では、コーチングはビジネスのどの分野でも機能するのでしょうか。コーチングは万能ではありません。仕事を「重要度」と「緊急度」という二つの軸で分けて考えたとき、コーチングの効果が最も高いのは「重要だが緊急ではない領域」です。
一般に、重要な事柄だけれども緊急ではないために手がつかず、終始気にかかっている問題を抱えている人は実は多いのではないかと思います。このような問題はずっと放っておかれるうちに緊急度が増し、重要かつ緊急な問題になって初めて処理されます。事柄によっては、緊急性がないために、永久に手がつけられない可能性もあります。
緊急で重要な仕事であれば、処理しなければならないことについては、選択の余地はありません。重要な事柄がこの段階に入る前にコーチングをすることは、重要かつ緊急な事柄を減らすことになり、真の意味でリスクマネジメントをすることが可能になります。そこでコーチングを受けたいと考える方には、「重要だが緊急ではない領域」でのテーマ設定をお勧めします。たとえば、コミュニケーションスキルの向上、キャリアプランの作成、チームワークの活性化、マネジメントスタイルの発見、パフォーマンスの向上などがあげられます。
誰でもコーチになれるのですか。コーチになるために資質はありますか。
2006/06/29
コーチには、誰もがなれるわけではありません。コーチになるために一番大切なものは、人に対する関心です。人への関心を持つためには、自分の基盤ができている必要があります。自分のことに精一杯で人に関心がもてない人、そもそも人に興味がもてない人には、コーチは向きません。自分がうまくいっていない人が他人のコーチをするのは、単に自分の問題から目を反らすことになります。
では、コーチとは具体的にどのようなスキルをもっている人のことを指すのでしょうか。最も基本的な聞くスキルと、話すスキルのチェックリストを紹介します。
聞くスキルとしては、主に7つの項目があげられます。
□ 何も言わずに相手の話を聞くことができる
□ 言葉の裏にあるものに耳を傾けることができる
□ 相手と気持ちを共有することができる
□ 真実を聞き分けることができる
□ ボディランゲージを理解できる
□ 沈黙の力を活用することができる
□ 問題の核心をつかむことができる
話すスキルとしては、主に7つの項目があげられます。
□ 直接的に話すことができる
□ 会話を楽しむことができる
□ 感情を表現できる
□ 欲しいものを要求できる
□ 自信をもって話すことができる
□ 人から引き出すことができる
□ ノーと言うことができる
これらのスキルは、日常のコミュニケーションを豊かにするためにも利用できます。コーチには誰もがなれるわけではありませんが、コミュニケーションで新しい気づきや創造的な瞬間を生み出すことは誰にでもできます。ぜひ、職場や日常生活で利用されることをお勧めします。
コーチをつけるメリットはどのようなところにあるのですか。
2006/07/06
コーチをつける最大のメリットは、行動が持続することにあります。たとえば、英語を習得するためにリスニングテープを買った経験はないでしょうか。社内で調査したところ、買った人の中でも最後まで聞き続けたという人はごく僅かでした。しかし「コーチがついていたら続けられたと思うか」という質問には、8割近くがイエスと答えました。
コーチはクライアントが目標を達成するために継続的に関わります。そこで一人ではできないことも行動し続けることができるようになります。そして行動が持続すると、実現したいほとんどのことは実現します。
行動が持続すること以外のメリットとしては、第一に、自分が何を望んでいるかを明確にできるということがあります。私たちは、自分が本当に望んでいる価値やキャリアビジョンを潜在的には理解しているかもしれませんが、普段、それを明確に言葉にすることはできません。
第二に、エネルギーをコントロールすることができるようになります。コーチはクライアントのエネルギーを奪っているものが何かをはっきりさせ、それらをなくしていくための長期的な戦略をたてます。更に、エネルギーを高めているものを明らかにし、それを強化します。
第三に、バランスの取れた生活を送ることができるようになります。コーチングでは、健康や人間関係、仕事、自分自身の時間など、多くの領域についても質問します。そこでクライアントにとって望ましい生活を手に入れることができるようになります。結局は、私生活も含めた望ましい生活の実現により、キャリア上の成功も最大限に引き出されます。
コーチングはすべてのことを可能にするのですか。機能しない場合もありますか。
2006/07/13
コーチングが機能しやすいのは、次の2つの要因があるときです。
第一に、クライアントが成長し、学び、行動を起こしたいと思っているときです。第二に、クライアントが現在いる場所と、こうありたいと望んでいる場所とにギャップがあるときです。
これらのいずれかに当てはまっていれば、コーチングは機能します。仮に具体的なテーマやヴィジョンが決まっていなくても、コーチングセッションの中でそれを明確化することができ、それが上記の2つの要因を満たしていれば効果的なセッションになります。
逆に、コーチングが機能しないケースもあります。コーチングは万能ではありません。機能しないケースのことを「アンコーチャブル」なケースといいます。アンコーチャブルな要素としては、クライアントが
1.コーチングを必要としていない場合
2.カウンセリングを必要としている場合
3.過去にカウンセリングを受け、現在も受けている場合
4.コミュニケーションが取れない場合
5.約束が守られない場合
などがあげられます。
また、上の条件にあてはまらなくても、コーチに何でも依存するクライアントはアンコーチャブルです。なぜなら、行動の責任を取るのはクライアント自身だからです。これは、コーチがコーチングの成果を上げることに対して責任を取らないということではありません。コーチはクライアントの行動を支援しますが、最終的に行動するかどうかについて判断をするのはクライアント自身だということです。コーチは質問やフィードバックを通して、クライアントが一人では持てない豊富な判断材料を提供します。
コーチングでよく扱われるテーマにはどのようなものがありますか。
2006/07/20
コーチングでよく扱われるテーマはある程度決まっています。大きく分類すると、
1.自己基盤を確立すること
2.ビジネススキルを向上させること
3. 会社の組織力を高めること
の3に分けられます。それそれ重複する部分もあるのですが、以下に具体的なテーマ例を紹介します。
1.の自己基盤を確立させるには、
□ 身の回りの環境を整える
□ 理想的な経済状態を手に入れる
□ 健康状態を整える
□ 人間関係を充実させる
などが中心テーマになります。
2.のビジネススキルを向上させるには、
□ 信頼関係を築く
□ 変化への対応力を高める
□ 話を聴く技術を高める
□ 人前での話し方を磨く
□ 目標の明確化とそれに向かっての行動を起こす
□ コンピューター・スキルを上げる
□ 文章術を高める
□ 長期的視野を持つ
□ リーダーシップ力を高める
□ プレゼンスマネジメントを高める
などがテーマになります。
3.の組織力を高めるためには、
□ コミュニケーションの改善
□ 部下に仕事を任せるスキルを高める
□ ビジョンを構築し、組織に浸透させる
□ ソーシャルキャピタルを高め、効率を高める
などがテーマになります。これらは結果として業績を向上させることを目的としています。
更に、コーチングはビジネスだけではなく医療や教育の領域でも機能します。
医療では、
□ 患者からのヒアリングをする能力を高める
□ 患者とのコミュニケーション能力を高める
□ 患者との信頼関係を築く
などがテーマになります。
教育では、
□ 生徒や父兄とのコミュニケーション能力を高める
□ 生徒の学習意欲を高める
などのテーマにも有効です。
信頼できるコーチを選ぶポイントは何ですか?
2006/07/27
コーチを選ぶポイントは主に3点あります。
第一に、認定資格を持っていることです。認定資格を出している機関はさまざまですが、たとえば、生涯学習開発財団の「認定コーチ」や、国際コーチ連盟(ICF)の「プロフェッショナル認定コーチ」などがあります。資格を持っていることは、実績や知識・能力の証でもあります。
第二に、コーチ自身がコーチをつけていることです。これは、コーチとしての判断や感覚が偏らないという意味でも重要ですし、また、コーチ自身のスキルアップという意味でも重要な指標になります。
第三に、コーチとしてのトレーニングを継続的に受けていることです。コーチングに特化したトレーニングや教育を受けているかどうか、定期的なスキルアップをどのように図っているかどうかを確認する必要があります。
また、コーチにはそれぞれ得意な領域・分野があります。そこで自分が達成したい領域のコーチングに強いかどうかも確認するとよいでしょう。
最後に、よいコーチかどうかを見分ける効果的な質問を紹介します。「あなたをコーチにつけると、私にはどのようなよいことがありますか?」、「あなたは、どのような方法で私をコーチしてくれますか?」、「あなたは自分にコーチをつけていますか? それによってどんな成果がありましたか?」などの質問は有効です。特に重要なのは、これらの質問に答えるときのコーチの様子をよく観察していることです。そのコーチが、安定感、自信、信頼、力強さを感じさせるコーチであればよいコーチです。そうではないときには、依頼を見合わせたようがよいかもしれません。
コーチングの効果は、クライアントの準備や姿勢によって変わりますか。
2006/08/03
コーチはクライアントに、コーチングのセッションで最大の効果を得てほしいと考えています。そのために、もちろんコーチ自身にも恒常的なスキルアップが求められていますが、クライアント側の姿勢や準備がコーチングの効果を高めることは事実です。
クライアント側の準備の例としては、たとえば各セッションで話したいことをリストアップすることがあげられます。これは作業としては10分〜20分程度のものだと思いますが、この作業を通してそのセッションで手に入れたいものが明確になるため、各回のセッションの効果が上がります。
また、クライアントが成長したいと望んでいるかどうかで効果は違います。成長したいと望めば望むほど、多くのものを手に入れることができます。なぜなら、成長したいという気もちが、積極的な行動をもたらすからです。たとえば、クライアントの成長のために、コーチはたくさんのことを要求します。職場で新しいコミュニケーション方法を試すこと、クライアント自身が設定した目標を達成するために行動することなど、テーマに応じて宿題はさまざまです。宿題の内容についてはセッションの中に話し合って決めますが、それを実行に移すかどうかはクライアント次第です。
最後に、クライアントが自分の真の価値に基づいた明確なゴールをもっている場合に、コーチングの効果は最も高まります。望ましいゴールと現状の間のギャップが明らかになり、望ましいゴールに行き着くために必要なステップが分かるからです。そのステップに沿って行動することで、クライアントは自ずと望ましい状態を手に入れることができます。
自分より業務知識や経験の少ない人からのコーチングは、本当に役に立ちますか。何が得られるのでしょうか。
2006/08/10
読者の中には、自分より専門の業務知識や経験の少ない人からのコーチングは本当に役に立つのかと思われる方も少なくないかもしれません。たとえば、同じ専門分野の知識を持ち成功している人からアドバイスを受けた方が、効果的なようにも思えます。
「名選手必ずしも名監督ならず」とはよく言われる言葉ですが、名選手と呼ばれた人が、自分がやってきたことをうまく言語化できなかったり、自分と同じやり方を相手に求めたりして、その人が本来もっている能力を押さえつけてしまうようなことはよくあります。会社でも、高い成果を上げた上司が部下を育てようとして同様のことが見られることがあります。
名選手が名コーチになるとは限らないのは、一言で言えば「会話」が作り出せないからです。つまり、相手の話を聞けないからです。選手を伸ばせるかどうかは、コーチが適切なコミュニケーションをしてその選手に合った方法を引き出せるかにかかっています。
そこでコーチに必要な要件とは、業務知識ではなく純粋な関心をもったよい聞き手であることです。先入観のない真っ白な状態で相手の話を聞くことが、良質のブレインストーミングをもたらします。話をすることで自分の中に眠っていた新しい可能性を発見し、手に入れることができます。つまり、その人らしくアプローチをするためのよりよい方法が引き出されるのです。
更に、コーチからの質問やフィードバックは、違う視点を備えさせることになります。これが、クライアントがそれまでに想定していた行動パターンや捉え方とは異なる選択肢を提供することになります。
コーチングを職場に導入すると、どのようなメリットがありますか(その1)。
2006/08/17
コーチングを職場に導入するメリットとして、今回は「タイプ分け」の考え方を紹介します。これはコミュニケーションの特徴を4つに分けるもので「人はひとりひとり違う」という考え方に基づき作られています。
4つのタイプとは、1.コントローラー、2.プロモーター、3.アナライザー、4.サポーター、に分けられます。
1.のコントローラーの特徴は、 行動的で決断力があり、正義感が強く、自分の思い通りに物事を進めたがるという点です。このタイプへの関わり方は、結論から話すこと、コントロールしようとしないことが重要です。
2.のプロモーターの特徴は、人と活気のあることをすることを好み、変化、混乱への順応性が高いという点です。このタイプへの関わり方としては、否定的なアプローチはしないこと、仕事の仕方はある程度自由に任せることが重要です。
3.のアナライザーの特徴は、物事を始める前にデータを集め分析するのを好むこと、粘り強く、最後までやり遂げる力がある点です。このタイプへの関わり方としては、指示は理論的に、質問は具体的にすることが重要です。
4. のサポーターの特徴は、人との協調性を大事にし、暖かく穏やかな性格であることです。このタイプへの関わり方は、話している言葉以外の情報に注意を向けることや、威圧的にふるまわないことが重要です。
これらの4つのタイプを意識して関わることで職場のコミュニケーションに新しい視点をもたらすことができます。
(「タイプ分け」の詳細については、http://test.jp/common/type_about を参照)
コーチングを職場に導入すると、どのようなメリットがありますか(その2)。
2006/08/24
コーチングスキルの重要なものとして「アクノレッジメント(承認)」という考え方があります。これはコーチングでは「相手の存在を認め、さらに相手に現れている違いや変化、成長や成果にいち早く気づき、それを言語化して、相手に伝えること」と定義しています。
アクノレッジメントの例としては、上司から部下への「最後までやり通したね」「君はいつも一番に電話をとるね」などの声がけがあります。これは見たままの事実を伝えているのですが、それだけで部下のモチベーションを高め、望ましい行動を継続してもらうことができます。部下にとって、上司とつながっている感覚や行動を認められている感覚があるからです。もちろん、アクノレッジメントは上司と部下の関係だけではなく、同僚同士でもモチベーションを高める効果があります。
アクノレッジメントは、受け手の成長を促す重要なスキルですが、アクノレッジメントをするためには、まず、普段からの観察が重要です。普段から相手をよく観察していないと、変化や成長に気づくことはできません。どんな小さなことでもいいのです。とにかく見つけて伝える、そのことが大切です。それが「あなたを見ているよ」というメッセージとして相手に伝わります。
アクノレッジメントをされると、受け手は自分自身が成長し、変化していることが分かり喜びを覚えます。そしてこの自己成長感は、やる気や自発性を促すエネルギー源となります。そこで、アクノレッジメントの流通している組織では個人のモチベーションが上がり、それが業績の向上に大きな影響を与えるのです。