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Keikyoレポート『ビジネスコーチング』

最近、ビジネスの現場で「コーチングという言葉をよく耳にしますが、コーチングとはいったいどういうものなのですか?

2006/04/06

コーチングとは、コミュニケーションを通じて「目標達成に必要なスキルや知識、情報を棚卸しし、それを相手に身につけさせるプロセス」のことです。スポーツ選手がコーチをつけるのは、試合で勝つ、いい成績を残す、という目標があるからです。ビジネスの世界でも、それは同じことです。ビジネスにおいては「業績を上げる」という大きな目標があります。そのために、近年、ビジネスの世界でも、コーチをつける人が増えてきているのです。

また、ビジネスにおけるコーチングには、部下育成のスキルという側面もあります。部下にただ目標を与えるのではなく、実際にその目標が達成できるよう上司が部下をコーチするのです。しかし、コーチングは、決して単なる目標管理のプロセスではありません。コーチングというコミュニケーションを通じて目標に向かう中で、自分でも気づいていなかった自分自身の能力や可能性が引き出されていきます。このように、コーチングは、さらに大きな目標に向かっていく能力を備えさせていくコミュニケーションなのです。

近年、ビジネスにおいて「コーチング」が注目されるようになりましたが、それは、決して新しくつくり出されたものではありません。いつの世にも、生徒を教えるのがうまい先生、部下の育成がうまい上司という人たちがいました。

そうした、人の育成に優れた人たちのコミュニケーションをコード化し、体系づけたものがコーチングスキルと呼ばれるコミュニケーションスキルです。その中には、普段あなたが使っているものもあるかもしれません。ただ、それにどのような効果があるのかを認識し、改めて体系づけて身につけることは、効果的な人材育成に役立ちます。

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いま、ビジネスの現場で「コーチング」が注目されているのはなぜですか。

2006/04/13

スポーツの世界において、コーチの存在が以前よりもクローズアップされるようになってきました。たとえばゴルフなどでは、選手同様に有名なコーチも出てきています。その理由のひとつは、選手同士の力がますます伯仲し、僅差を制して勝ち続けるには、選手ひとりの力では難しい時代になってきたからです。スポーツ選手にとって、常に勝ち続けるために、コーチの存在は不可欠なものとなり、その役割に対する認識も変わってきたのでしょう。

ビジネスにおいても同じことが起こっています。現代社会は変化のスピードがとても速く、ビジネスで勝ち残っていくためには、自分だけの力ではもうどうしようもないところまできています。経営者やエグゼクティブにとってコーチが必要になるのは、まさにスポーツ選手と同じ理由からです。

また、価値観が多様化している現代、これまでのように「右向け、右」で、社員が一斉に右を向くことはなくなりました。そんな中で、組織をまとめ、さらにその構成員ひとりひとりのパフォーマンスを上げていくには、それぞれの構成員に対して個別の対応が必要な時代です。

コーチングというコミュニケーションの原則のひとつに、「個別対応であること」というものがあります。コーチングは、まさに個人の能力や可能性を引き出し、パフォーマンスを向上させていくためのスキルなのです。だからこそ、この時代に、組織のリーダーがコーチングスキルを身につけることが求められるようになってきているのです。

リーダーとは、経営者の場合もあれば、もっと小さな単位、たとえば、社内のチームのリーダーの場合もあるかもしれません。いずれにせよ、リーダーといわれる立場の人にとって、コーチングスキルは、部下を育成し、チームのパフォーマンスを上げる上で、欠かすことのできないマネジメントスキルのひとつになりつつあります。

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コーチングとはどのような背景から出てきた考え方なのですか。コーチングの歴史を教えてください。

2006/04/20

コーチ(Coach)という言葉の語源は、「馬車」です。1500年代に「 大切な人をその人が望むところまで送り届ける」という意味から派生しました1840年代には、英国のオックスフォード大学で、学生の受験指導をする個人教師が「コーチ」と呼ばれるようになりました。更に1880年代にはスポーツの分野で「コーチ」という言葉が使われるようになりました。

マネジメントの分野で使われるようになったのは、1950年代のことです。1958年に、Myles Mace(当時ハーバード大学助教授)が、マネジメントの論文で「コーチング」という言葉を用いました。その後コーチングが注目されるようになったのは、1974年にスポーツコーチである Tim Gallwey の「インナーテニス」がベストセラーになってからです。Tim Gallwey は、テニスを教えるときに、効果的な質問をして選手の能力を引き出しました。そして、1980年代にはコーチングに関する出版物が次々に登場しました。

1992年には米国に Coach University が誕生し、コーチを育成するようになりました。また、1997年には、企業内コーチの育成のために Corporate CoachU International も設立されました。日本でも同じく1997に、株式会社コーチ・トゥエンティワンが設立され、コーチの育成プログラムを展開しています。

現在、コーチングは日本でも効果的なコミュニケーションスキル、マネジメントスキルの一つとして着目され、多くの会社や個人により活用されています。

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コーチングという言葉はよく聞きますが、実際には何をしているのでしょうか。

2006/04/27

コーチは、クライアントと会話を重ねることで、クライアントが目標達成に必要なスキルや知識を身に付け、行動をするための伴走者の役割をします。コーチはクライアントに新しい気付きをもたらしたり、行動の選択肢を増やしたり、実際に行動を起こしたりするための、効果的な質問をする訓練を受けています。また、各セッションを戦略的なものにするために、コーチはコーチング・フローに基づいて質問をしています。

コーチング・フローとは、

1.現状を明確にし、
2.望ましい状態を明確にし、
3.現状と望ましい状態のギャップを引き起こしている理由と背景を発見し、
4.行動を決定する

プロセスです。

中でも重要なのは、現状と望ましい状態のギャップを引き起こしている理由や背景を知ることです。このギャップの原因をクライアントが本当に納得して発見することができると、そのとき、自発的に行動したいという気もちが生じます。その結果、クライアントの行動が変容します。

コーチングの期間は3ヶ月、1年など様々ですが、基本的にこのフローに基づいて行われます。ただし、このフローはクライアントの状況やテーマに応じて個別に活用されることがポイントです。ある人は現状の明確化を、ある人は望ましい状態の明確化を重点的に扱うといった具合です。人はそれぞれ違いますので、コーチングにおいて個別対応(Tailor-made)は非常に重要です。

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コーチングはカウンセリングやコンサルティングと異なるものなのですか。

2006/05/11

コーチングとは、カウンセリングともコンサルティングとも異なるものです。最も異なる点は、コーチとクライアントが「教える側」と「教えられる側」ではない、横に並んだ対等な関係であることです。
カウンセラーは、特にメンタルな領域のエキスパートだと言えます。主に過去を扱い、専門家の視点でクライアントのことを深く掘り下げていきます。そこで病気の治癒や、問題の改善などを行うために会話をします。

そして、コンサルタントは、特定のビジネス、業界のエキスパートだと言えます。クライアントの課題を分析し、それに対して正解を与える役割を担っています。特に組織の問題に対して、課題を明らかにし、解決するための方策を考え実行します。

これらに対して、コーチとはコミュニケーションのエキスパートです。コーチの大きな役割は、クライアントに多くの質問を投げかけ、コミュニケーションを通して自発的な行動をもたらすことです。コーチが答えを与えることはありません。コーチとクライアントとの関わりは、2人で並んで椅子に座り、ホワイトキャンバスに一緒に絵を描いていくようなものです。

コーチングで焦点を当てるのは、現在と未来です。過去に触れることもありますが、それは現在・未来において実現したいと思っている価値やゴールを明確化するためです。コーチングセッションでは、価値やゴールを実現するための、短期間で達成できる具体的な目標を設定します。コーチは、この目標達成のために働きかけますが、正解を与えるのではなく行動の選択肢を増やすことが目的です。

課題を解決し、行動を選ぶのはクライアント自身です。

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周囲に人の育成が上手な人がいるのですが、特別な訓練を受けなければコーチにはなれないのでしょうか。

2006/05/18

特別な訓練を受けなくても、人の育成が上手な人はいます。私たちはそのような人を「ネイティブ・コーチ」と呼んでいます。

ネイティブ・コーチの例として、4年連続で、売上ナンバーワンになっている、ある食品販売店のマネジャーの例を紹介します。そのマネジャーは、部下に対して「頑張ってるね」と言います。決して、「頑張ってね」とは言いません。言葉にすると一文字の違いですが、部下が受け取るメッセージは異なります。「頑張ってるね」という言葉は、マネージャーに見られている、認められているという印象を与えます。ですが「頑張ってね」と言われると、部下は「こんなに頑張っているのにまだ足りないのだろうか」と感じます。言葉にすると何気ないものですが、この配慮の違いで、部下が育つか育たないかに大きな差が生じます。

第一回目の連載でも紹介しましたが、コーチングとは、元々ネイティブ・コーチの行動をコード化して作ったものです。では、ネイティブ・コーチと訓練を受けたコーチの差はどこにあるのでしょうか。

コーチングというと、会話や質問を繰り返すだけのものと考える人もいるかもしれませんが、実はコーチングとはアセスメントやツールを利用し、一定の流れに沿って展開するものです。ネイティブ・コーチは効果的な会話や質問ができる面では、コーチと同等のスキルがあるかもしれませんが、アセスメントやツールの利用、体系的なスキルという面では、特別な訓練を受けたコーチは区別されます。

ただし、ネイティブ・コーチが会社の人材育成にとってかけがえのない存在であることは言うまでもありません。

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コーチングはなぜ機能するのですか(その1)。

2006/05/25

コーチングが機能する理由にはいくつかありますが、ここではその代表的なものとして「オートクライン」の重要性を説明します。

「オートクライン」とは、もともとは細胞間で行われている情報伝達(サイトカインネットワーク)を説明するときの用語です。Aという細胞からもうひとつの細胞Bに情報を伝達するときに、細胞Aは同じ情報を、Bに対してのみならず、自分自身に対しても伝え、受け取っているというものです。これと同じことが私たちのコミュニケーションでも起こっています。

人は、通常話をするとき、話し言葉の200〜300倍のスピードで思考が動いているといわれています。この、速いスピードで動いている思考を、人は普段、認識していません。思考を認識するには、会話などにより自分の思考をアウトプットし、それを自分自身も受け取ることが必要です。コーチングはこの「オートクライン」を促すため、自己認識を深めることや、新しい気付きや発想を得ることが可能になります。

世の中のエグゼクティブと呼ばれる人は、役割に応じた話をする機会には恵まれているかもしれませんが、自分の本音を話す時間を意外ともてていないものです。そこでコーチングは、エグゼクティブにとって質の高いブレインストーミングの場になります。たとえば、未来に向けて最重要課題は何か、長期的な目標に向けて何に手をつけるのがよいか、日頃見逃していることは何かなどについて、会話の中で発見し、素早く行動に移すことができます。

次回は、コーチングを機能させる二つ目の要素「フィードバック」について説明したいと思います。

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コーチングはなぜ機能するのですか(その2)。

2006/06/01

前回、コーチングが機能する要素の一つとして「オートクライン」を紹介しましたが、今回は「フィードバック」について説明します。

読者の中には、フィードバックとは自分を評価するもの、傷つけるものなどマイナスのイメージをもっておられる方も少なくないかもしれません。ですがコーチングでのフィードバックとは、評価・批判・強制・忠告とは区別されるもので、行動を強制するものではありません。フィードバックを受け取るかどうかかはクライアント自身が判断します。

たとえば、コーチはクライアントに「私はこういう風に感じる」、「私にはこう見える」などと伝えます。これはクライアントがどう見られているかを写す鏡になります。また、クライアントが自分とは異なるモノの見方、考え方をする他者がいることに気づく機会にもなります。フィードバックは、コーチからのものだけではなく、360°フィードバックなども非常に有効です。

人は、フィードバックを受け、自分と他者の認識の間に存在するギャップに直面したときに初めて、自分の認識や行動を振り返ることができます。ギャップに気付いた人は、他者の認識に合わせて自分の認識方法を変えるかどうかを決断することができます。その決断が新たな認識や行動をもたらします。

ただし、フィードバックが有効なものになるには、第一にフィードバックの機能を受け手側が十分に認識していること、第二にクライアント自身の目標が明確であることが重要です。

フィードバックについての認識が不十分な場合には、受け手に不必要なダメージを与えますので注意が必要です。

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コーチングはなぜ機能するのですか(その3)。

2006/06/08

コーチングがなぜ機能するのかを説明する要素として、前回までに「オートクライン」「フィードバック」を紹介しましたが、今回は「効果的な質問」について説明したいと思います。

コーチングにおける質問とは、聞き手の知りたい情報ではなく、相手の中に眠っている可能性や価値ある情報を引き出すためのものです。

一般に、質問にはクローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョンの2種類があります。クローズド・クエスチョンとは、答えが「はい/いいえ」になる質問のことです。たとえば「あの仕事は終わりましたか?」のような質問では、仕事が終わったかどうかを素早く確認することができます。

コーチングではこの2種類の質問を使い分けますが、とくにオープン・クエスチョンを活用することが重要だと考えています。たとえば「そのプランが実現したら、あなたはどんな状態になっていると思う?」という質問をします。この質問には本人に未来を予測させ、モチベーションを高める目的があります。

目的をもった質問は大きな力を発揮します。前述の質問では、上司が部下に「そのプランの実現で手に入れられるもの」を教え示した方が、速く行動できるかもしれません。ですが、オープン・クエスチョンにより部下が自分で答えを出す時間を用意することは、本人の成長を促進します。なぜなら自分で主体的に考え、行動を選択することで、自律性と対応力が身につくからです。

そこで長期的に考えると、上司の出した指示通りに動ける人材よりも、自分で考え、行動できる人材が集まる組織の方がパフォーマンスが高いと思いませんか?

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コーチングを機能させるためのポイントは何ですか。

2006/06/15

コーチングのポイントは3点あります。

1.インタラクティブ(双方向)
2.オン・ゴーイング(現在進行形)
3.テーラーメード(個別対応)

です。

単にコーチングスキルを覚えても、この原則が守られなければ意味がありません。

インタラクティブとは、コーチする側もされる側も「話す」と「聞く」の両方の役割を担うということです。組織の中におけるコミュニケーションを観察すると、上司から部下への一方通行であることが少なくありません。一方的ではなく、上司も部下も話し、聞くことが重要です。更に他者とのコミュニケーションは自分自身の内側とのコミュニケーションも可能にします。

オン・ゴーイングとは、相手の行動が変わるまで関わり続けることです。一度にたくさん話すよりも、短くても継続的に関わり続けることが重要です。たとえば目標管理についての面談では、一度目標を設定しても現実との間に必ず誤差が生まれます。この誤差をリアルタイムに見つけたり、それを修正したりするために、継続的に多くのコミュニケーションを重ねることが必要です。更に、目標を思い出させリマインドをする効果もあります。

テーラーメイドとは、一人ひとりの体形に合わせて洋服を作るように、コミュニケーションを個別にデザインする必要があるということです。当然ですが、人は一人ひとり違うので、ある部下にうまくいったアプローチでも、他の部下に同じように機能するとは限りません。部下の一人ひとりを観察し、それぞれのコミュニケーションのタイプや価値観、興味分野などを見分け、それに応じた関わり方をすることが大切です。

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