入院しているときに、友達がもってきてくれた本でした。
田口ランディは、インターネット上にエッセイをあげているうちに人気がでて作家活動を本格的にはじめた人です。(公式サイト http://www.randy.jp/)
インターネットの仕事をしているので、前から読もうと思っていた作家でしたが、なかなか機会がなく、いいきっかけだと思い、一気に読みました。
内容は、佐藤ミミという自衛隊出身で、看護士の経歴を持つ女性の主人公が、ひきこもりをしている人を精神病院に連れてゆく仕事をする中での体験です。
舞台は渋谷で、携帯電話が重要な役目を果たします。物語は彼女が、移送中の男の子の正也を渋谷で逃がしてしまい、探しているところからはじまります。渋谷の若者たちの描写の中で、携帯電話でまわってくるなぞの団体のチェーンメールに、多くの若者が影響され、不思議な行動を同時にとるシーンは、もしかして今、本当に起こっているのではないかと思わせるくらいの迫力があります。
実は、携帯メールは非常に影響力を行使できるコミュニケーションツールなのです。日本ではあまりないのですが、携帯メールは、アジアでは政治活動など盛んに使われているのです。(http://www.icr.co.jp/newsletter/report_asia/2004/s2004H006.html)
正也がそのチェーンメールを流している団体に関係していることを知り、佐藤ミミは、その本部を訪ねます。そこで彼女は自分の父親が残したノートの内容がもとに携帯チェーンメールが作られているのを知ります。
全体的に謎が謎を生む話です。最後に、ちょっとした幻想の世界を彼女は垣間見て、正也を見つけます。最新のハイテクに囲まれて育ってきた世代の若者たちにとって、新しい現実が生まれるのを、田口ランディは、感覚的に提示してくれたという読後感をもちました。ハイテク世代は、個体としては脆弱ですが、携帯などの電子機器を駆使した目に見えない大きな一体感をもった総体としてのパワーがあるのではとふと思わせる小説でした。おそらく、その総体としてのパワーはまだ眠ったままなのでしょう。
そして、その力を発揮させるのは、ノートの書かれたような文字情報だけできっと十分なのでしょう。今は、誰もが実は奇跡を起こせる世界なのかもしれません。
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