空気のように当たり前で、普段考えることのないものにも、名付けられて概念化されると改めてテーマとして浮かび上がってくるということがあります。
言葉というものの力でしょうか。
「ソーシャル・キャピタル」もそのような言葉です。「人々のあいだの積極的なつながりの蓄積によって構成される。すなわち、社交ネットワークやコミュニティを結びつけ、協力行動を可能にするような信頼、相互理解、共通の価値観、行動」と定義されています。
ヘンリー・フォードはかつて「(車を組み立てる)手が二本欲しいだけなのに、なぜ人間も一緒についてくるのだろうか」と嘆いたそうです。
あるいはチャップリンの「モダンタイムス」。
これらは極端ながらも、企業をはじめとする組織における部分としての「人」の古典的なイメージが表現されています。このようなイメージからは、組立ラインでのボルト締めやコンピューター入力などのように目に見えて人々が忙しく振る舞っていることが「本当の」仕事であって、ロビーでの雑談や昼食後のたむろは「さぼり」、せいぜい「副次的なもの」としてしかとらえられません。
「ソーシャル・キャピタル」はこのような社交こそ仕事を可能にする「人と人とのつながり」を強化する機会ととらえ、投資すべき対象として光を当てる言葉として使われるのです。
本書ではひきつづき「つながり」を大切にする空間と時間、会話とストーリーテリングについて具体的な記述があります。
しかし、「空気」を意識しなければならない状況というのは医学的には「呼吸困難」であり、なかなか安穏としていられない危機的状況なのかもしれませんね。いずれにしても自分の所属している組織を思い浮かべながら興味深く読み進めた1冊です。
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