子供の性格を決定するものは何だろうか?
一般的には「生まれ(nature)」と「育ち(nurture)」、つまり遺伝子と環境だといわれる。遺伝子は納得。それでは、環境、特に親の教育と躾はどうなのか…?
ジークムント・フロイトがエディプス・コンプレックスを発明して以来、成人期の心理的苦悩のほとんどが、幼年期の、特に親とのかかわりが深い時期の体験に起因するものだと決めつけられ、私たち「親」は無条件で有罪視され続けてきた。
フロイト派の対抗馬として半フロイトに徹したはずの、ジョン・ワトソンに始まる行動主義も、幼児に対する親の絶対的な影響という概念は、なぜか否定し忘れたまま今日まできてしまっている。
「育児のしかたが子供の性格と将来を決定する」という通説は
- 幼児期に愛情をこめて抱きしめやっていると、優しい子どもになる
- 寝る前に本を読み聞かせると、勉強好きな子どもになる
- 体罰は子どもを攻撃的な性格にする
- 家庭内不和特に離婚は子どもの学業成績を低下させる
等々いくらでもあるが、これらがすべて子育ての「大誤解」だったら?
本書は、この「子育て神話」が、学者たちの狭量とずさんさにより、恣意的な学説から生まれた、まったく根拠のないものだということを、心理学・人類学・霊長類学・遺伝学などを駆使して論じている。
親は子どもの家庭外での行動に対して、長期的影響力は持っていない。遺伝子以外で重要なものは、家庭ではなく、子どもの仲間集団である、というセンセーショナルな結論から、本書は、たちまち世界中で大反響をまきおこした。
否定派曰く、
- 彼女の結論は早合点で、かつ危険きわまりない
- 親がこれを真に受け、こどもを放ったかしにしたり、さほど影響がないからと虐待し
- 都合の良いデータのみから、巧みな論法ででっち上げた極端な結論だ
- 責任を他に押し付けようという親には耳あたりの良い話だが、真剣に子育てをしている親にとっては、百害あって一利なし
絶賛派も多く、
- 本書は心理学史の転機になるだろう
- 親があまり重要でないという証拠は実際に存在するが、それがあまりショッキングなので、人は見て見ないふりをしているだけだ
- 育児書を読んで納得できなかった部分が、ようやく理解できるようになった
- 学閥というヒエラルキーの内部に、心地よく浸っている学者どもには、絶対書けなかったたぐいの明快な書
等々。
さてあなたはどちら派だろうか?
私?私は、良いことだけは親の(特に父親の)影響を受けている、と自分に楽な納得をすることにしているご都合主義者だが、少なくとも行動主義者が考えるように、子どもは粘土のようにこねくり廻して自在に形を変えられるものだ、とは思っていない。
日本ではあまり反響のなかった本書だが、最近の少年犯罪の多発と報道に触発され再読。何度読んでも、目からうろこの、ショッキングな本だ。子育て自体に興味がなくても、ぜひ一読をお薦めする。世界を見る眼が一気に広がることは請け合う。
なにやらどこかの偉いじい様が「親は市中引き回しで打ち首」発言をしたとのこと。親は子どもにさほど影響を与えないかもしれないが、子どもは親に多大な影響を与えてしまうのは、子育ての怖い現実である。 |