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[No.80]  安藤 潔のおすすめ
平成三十年
堺屋太一著(朝日新聞社)


平成三十年、今から15年後だが、私は61才になる。数年後に退職を控えている。そのとき、世の中は今とどのようにちがっているのだろうか。今と大して違っていないかもしれないし、何かが決定的に違っているのかもしれない。予測をすること、その中でシミュレーションすること。それは意味のないことなのかもしれないが、たまには気晴らしになる。

15年ほど前、私も自分自身のこと、医学・医療のことをいろいろ考えていた。その上に自分の進むべき道を探っていた。その予想は今振り返ってみても驚くほど当たっている。分子生物学が広く医学の中に導入されたこと。遺伝子を背景に病気を考えるようになったこと。基礎と臨床の境界が失われていくこと。統計学、疫学に基づく意志決定が普及すること。末期医療への関心。医療におけるコミュニケーションへの関心。骨髄移植療法の普及。細胞生物学の発展。発生学の生物学全般への波及とその成果としての再生医療。生物学、医学への社会的関心の増大。そういったひとつひとつのことが予想されたことだった。やはり予測とそれに関する深い考察は意味のあることだ。

そして、「油断」や「団塊の世代」で予想確率に関しては定評のある堺屋太一氏が15年後を予測し、小説という形で生活実感を感じられるようにしてくれたものが「平成三十年」である。文学作品としては物足りないかもしれないが、官庁の作ったパンフレットよりは気がきいている。その世界ではあらゆる経済指数は悪化し、高齢化社会を迎えている。これまでの15年間はバブルがはじけたとは言え高度経済成長の延長上という実感の上に続いてきた社会であったが、これからの15年はそう言うわけにはいかないようだ。

ここ何ヶ月か企業、銀行の倒産が続いている。ピークを過ぎた社会を、生活の中で実感せざるを得ない、そういう年月になるようだ。そしてなにより社会構造が変わる。知価社会の到来。近代工業社会から知価社会へ。この変化が具体的にどのような日常生活の変化を生み出すのか。製造業の衰退、商店街の消失、通信・ネットワークの進展とそれに大きく依存した社会、知的労働の増大、地方の過疎化、などなど具体的な形で「体験」することができる。しかしそれはどうも「気晴らし」にはならないようだ。


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