石やコンクリートで創られた建築物の寿命が数百年であるのに木で創られた法隆寺が千三百年を経て現存していることは、やはり驚異である。グローバリゼーションが進行する中で日本の文化とは何なのかという問がますます切実なものになってきている。
この本は最後の宮大工と言われた西岡常一氏の口述記録で、職人とはどのようなものかについて語り伝えられる。その語りの中には宮大工という特異な領域に限られない真実がちりばめられている。
例えば「今は石油を材料にしてどんなに扱っても壊れん、隣の人と同じもの、画一的なものをつくれというんですからな。いつまでも壊れん、どないしてもいいというたら作法も心構えも何もいらなくなりますわな。茶碗は人が丁寧に作ったもんでした。下手に扱えば壊れますな。二つと同じものがないんやから、気に入ったら大事にしますな。扱いも丁寧になります。他人のものやったら、なおさらそうでっせ。人様が大事にしているものを壊したらならん、と思いますやろ。物に対しても、人に対しても思いやりがそうしたなかから生まれるもんですわ。文化というのは建物や彫刻、書というものだけやおまへんのや。」
ここには確かに日本の文化の美しいかたちがある。
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