「どんな船もいつかは沈む」
「沈みはじめたら助けにくるって約束して」
ひさしぶりに小説に夢中になって、電車を乗り過ごした。
上下2巻2段組、合計800ページ超の大作『航路』は3部構成になっており、それぞれの最後にあっと驚く展開が待ち受けている。その第2部の最後、600ページ目あたりにちょうど降車駅があたってしまったのだ。気がついたら、すでに2駅過ぎていた。(おいおい、このあとまだ200ページも残っているじゃないか、こんな展開をしてしまって、この後どうするんだよ…!)
訳者があとがきでも書いているように、この第3部は「袋綴じにして《返金保証》をつけてもいいくらい」だ。私は無条件で袋綴じを破いているだろう。
SF作家コニー・ウィリスとしてはちょっと毛色の変わった、臨死体験(NDE,Near Death Experience)をモチーフにしたメディカルサスペンスものだ。
認知心理学者のジョアンナ・ランダーは、デンバーの病院で臨死体験をした人たちの聞き取り調査をしている。新しく赴任してきた神経内科医のリチャードは、ジテタミンと呼ばれる新開発の薬剤によって擬似的な臨死体験を誘発できることを発見し、被験者の聞き取りをジョアンナに依頼する。
ボランティアの被験者に不適格者が続発し、暗礁に乗り上げかける実験に、ついにジョアンナ自身が被験者となることを申し出る。そして、擬似臨死体験でジョアンナが遭遇したのは、トンネルでも、光り輝く天使でも、花畑でも、親類縁者の出迎えでもなく、何とあのときの○○○○○○の中だった。でもなぜここに…。臨死体験との関係は…。
読みどころはあっと驚く展開部分だけではない。増改築を重ねた迷路のような巨大病院の中で、医師、看護婦、患者達の姿がいきいきと描かれる。が、なんと言っても圧巻なのは臨死体験の描写だ。
ちびちび読んでいると、先が気になってストレスがたまる。時間をとっての一気読みをお奨めする。読みやすく、かつ読書の醍醐味が堪能できます。 |