宮城谷昌光氏は1945年生まれ。中国の古代に素材を求め、人の生き方について、深く探究する文学スタイルを確立した人です。『夏姫春秋』で直木賞を受賞したのを始め、芸術選奨文部大臣賞、吉川英治賞、司馬遼太郎賞などの文学賞を総ナメにしてきた人ですが、一般に名前が知れ渡っているという人ではありません。
僕自身は『孟嘗君』『太公望』が大好きでしたが、『楽毅』も素晴らしい本です。「人が見事に生きるとは、どういうことか」というテーマを、戦国時代に中山国の宰相の子として生まれた楽毅という人物を通じて、鮮烈に描きだしています。
「真の名君は、臣下に聴き、臣下を信じ、臣下をうやまう人である」
「旅とは、ふしぎなことに何故という声を旅行者のなかに育てあげる。それによって学問の問が先行し、学がついてくるようになる」
けだし名言です。社会に倦怠感・無力感がただよう現代に、人の信義や徳望の重要性を訴える宮城谷氏の存在感はさらに高まっていくに違いありません。厚い文庫4冊ですが、一気に読ませる面白さと筆力を備えた本です。 |