スポーツはやっても見ても読んでもおもしろい。スポーツノンフィクションが好きだ。読みやすくかつお手軽に感動させてくれるので、ヘビーな本の後や、疲れていて気分転換をしたかったり、高揚させたいとき読むことが多い。本書も何気なく書店で手にしてしまったが、これは一味違った。なんてせつなくて、それでいてさわやかな読後感なのだろう。そのままもう一度、襟を正して読み返してしまった。
アスリートのピークは何歳だろう?競技にもよるが、25歳あたりだろうか。彼らは、青春のまっさかりに生涯の職業キャリア上最大の転換期を迎えなくてはならない。しかもあの華やかだった栄光に背を向けて…。
本書は70人の引退したトップアスリートへのインタビューを収録したもので、著者はかって全日本選手権5連覇をはたし、新体操ブームをおこしたあの山崎浩子。雑誌『Number』に連載されていた。
指導者から協会役員への順調な道、所属組織との確執、新しい世界への挑戦、見失った目標、燃え尽きた満足感、復帰、現役への狂おしいまでの未練、いまひとたびの…。
ひとたび引退声明をしたはずの多くのアスリート達の、復帰への試みがこれほど多かったとは思わなかった。ファウスト博士は、すべてのことに満足して「時よとまれ、お前は美しい」と言ったとき、悪魔に魂をゆずるという契約をした。はたして彼らのうち何人がこの言葉を口にできたのだろうか?
それにしても引退したアスリートたちの発言の素直さはなんだろう。1984年ロス五輪を最後に引退した山崎浩子だからこそできたインタビューなのだろう。さらに、著者の禁欲的でバランスのとれた文章がすばらしい。 |