技術開発の領域では、今、世界を変えるような研究開発がたくさんあります。その中でも、公害を発生しない燃料電池は、規模からいっても、もっとも熱いところです。公害を大量に発生する自動車に燃料電池が応用されると、格段に公害物質の排出量が削減されます。世界の自動車メーカーをはじめとして大企業は、この燃料電池の開発に莫大な資金を投入してきました。しかし、実際に、自動車会社が、こぞって、採用しようとする燃料電池を開発したのは、創業者のバラードという名前のついたカナダの小さなベンチャー会社でした。この本は、そのバラード社の生まれから、現在までをつづったものです。
もともと地質学者で、エネルギー問題研究家でもあったバラードは、エネルギー問題の解決は、新しい発電システムや、バッテリーの開発が、必要と思い至り会社をはじめたのです。初期のバラード社は、小さい技術会社で、とにかくなんでもやってみるぞ、そして、それを達成する会社でした。本の中では、大企業の研究者との対比で、その様子が生き生きと描かれています。しかし、燃料電池のように、開発から商品化までに時間のかかるものは、資金的な理由でなかなか着手することができませんでした。燃料電池の開発は、カナダ政府の開発公募による公的資金援助がきっかけです。それまでは、つくったことすらなかったのです。バラードの創業者たちは、大きな成果を出し、世界を変えるような燃料電池を作り出します。その次の時点で、バラードをはじめとする創業者の3人は、バラード社を世界を相手にした企業へと大きく成長させる決断を下します。社外から、ふさわしい人材を呼び入れたのです。彼は、その責務を果たし、政府からの開発資金をあてにしていたような小さな会社を、ダイムラーベンツやフォードをはじめとする大企業をパートナーにする世界企業まで育てあげます。しかし、現在、創業者の3人はバラードの実務からは離れています。会社が大きくなることの痛みが、著者の抑えられた文章で描写されています。一気に読める本でした。アマゾンの書評でも5つ星です。 |