池上直己先生は慶応大学医学部、病院管理学の教授である。JCキャンベル教授はミシガン大学で医療政策の仕事をしている。僕は日本の医療を見るのに、混とんとしていてどうやって解釈したらいいのかわからなかったが、この本を読んでひとつの非常に素敵な解釈モデルを提示してもらったと思う。池上先生の解釈はまず明るい。現状肯定から始まっている。
彼によれば今の日本の医療制度の特徴は、1) 低コスト、2) 平等なサービス、の2点に集約できるという。この2つは世界中どの国をみても実現化している国はなく、めずらしい現象であるという。そして、この2つのポイントを可能にしているのが、現在の診療報酬体系であり、国民皆保険制度による統制であり、さらには日本社会に特有のバランス感覚だという。自分はどちらかというと自由競争の世界が好きで、統制のない方がよりよいものが提供されると信じている。医療についても、現在のまったく競争原理の働いていない枠組みよりは積極的に変化を求める方なのだが、池上先生の本を読んで一概にそうも言えないと思い直した。というのは現状を大きく変えずに、アメリカ式よりもよい方向に医療システムをもっていける可能性が日本には残されているからだ。この辺は本著を読んでほしい。イントロのところでは日本医師会と厚生省の1960−1970年代のかけひきが日本の医療の方向性を決めたとして、その辺の経緯をゲーム感覚で表現している。こういう新しい感覚が、つまらなくなりがちな医療政策のようなテーマを読者に最後まで読ませている。お奨めの1書である。 |