例えば、もしも海が知的生命だったら。もしも1000年に一度しか夜が訪れない星があったら。もしも中性子星に生命が誕生していたら。もしも赤道付近で3G、極地では700Gという惑星に生物が住んでいたら。
もしもの物理的な条件が、生物にどういう影響を及ぼすかを、最新科学を基に物語を紡いでいくのが“ハードSF”と呼ばれる、サイエンスフィクションの「最も浪漫的な」サブジャンルだ。(きっとこの定義は違うなあ…。ま、とにかく)本書はこの手法を取り入れた、地球科学の解説書である。(と言い切って良いのか?)
「もしも〜だったら」という仮定に基づく仮想の地球を作り、様々な問題を投げかけ、まるでハードSFのようなリアルなシミュレーションで楽しませてくれる。表題となっている第1章「もしも月がなかったら」では、
- 潮汐力の減退により、自転速度が上がり1日は8時間になり、強風が吹き荒れる
- 潮の干満も少なく、生命の進化が遅い
- 酸素濃度が高く、より効率の良い発熱・冷却器官をもった生物が生き延びる
- 音声・聴覚によるコミュニケーションは減退し、生物は光やテレパシー?等の手段を発達させる。…。
「月〜」以外にも、地球の質量がもっと小さかったら、地軸が天王星のように傾いていたら、ブラックホールが地球を通り抜けたら、等々、10通りの魅力的な仮定での、最新の科学知識を基にした思考実験は非常に刺激的だ。予想外の展開に驚かされる章もあり、センス・オフ・ワンダーあふれる一冊だ。
歯ごたえのあるSFに餓えている方には、絶対のお薦め本だ。が、著者は残念ながらSF作家ではなく、米メーン大学の天文学・物理学教授である。日本のSF作家たちよ、お手軽なファンタジーや、新書本の戦記シミュレーション物をいつまでも量産している場合じゃないよ! |