意にあたらないセクションに配属され、鬱々と日々を過ごしている東晋の部長山口に、突然、やきそばの新製品を提案するように、との社長命令が下される。“チルドやきそば”のシェアを握っているのは帝国漁業だ。品質、味、包装ともに何の変哲もないはずの「ファミリー3食」が、なぜか40%を占めている。専業の恵比寿製麺は、手堅く差別化した商品で15%、我がインスタント麺の王者=東辰のシェアは2%を割るという惨憺たる数字だ。
1袋3食入りで200円足らず、銘柄の名前さえなかなか憶えてもらえないソースやきそば。たいして期待されていない市場だ。社長よりの指示は「市場を焼け野原にしてしまえ!」だが…。山口は誰も試みたことのない、新しいコンセプトのチルドやきそばを追求していく。
カレーの後はやきそばだ。それも中華料理のではない、ソースやきそばだ。
しかし、誤解しないで欲しい。これは「食」小説ではない。『カレー・ライフ』で表現されたような、食への愛が感じられない。故に、ソースのこげる香ばしい匂いは、文中どこからもしてこないのだ。ここでは、やきそばそのものは主題ではなく、ちょうどキャベツのようなもので、単なる不可欠な素材にすぎないからだ。
『やきそば三国志』は、スーパーの棚という戦場の陣取り合戦を戦う、マーケッタ・コンサルタントたちの熱い戦争物語なのだ。「食」小説としてではなく、一業界のマーケ・企画・戦略という面からの、業界裏話的経営小説として、とてもおもしろく読んだ。 |