虹とは光が空気のプリズムによって分解された単なる現象にすぎない、ということを証明してみせたニュートン対して、英詩人キースは「ニュートン(科学)は虹が喚起する詩情をだいなしにした」と責めたのだそうだ。『虹の解体』は、この逸話を逆手にとって、現在も続く、文学者や哲学者、エセ科学信者等の理不尽な科学批判に対して反論した自然科学啓蒙書だ。
“あの”利己的遺伝子説で科学界を震撼させた天才リチャード・ドーキンスが、科学が本来持つ“センスオブワンダー”をキーワードに、生物学のみではなく、脳・ゲノム・認知・物理学、宇宙論までをネタに、科学の敵を切りまくっている。
どうもドーキンス個人としては、自ら生み出した“利己的遺伝子”という概念が、“詩的に”捻じ曲げられて解釈され一人歩きしてしまったことにも苛立っているようだ。(仕方ないよなあ、おもしろ過ぎる説だもの。でもドーキンスが竹内久美子本なんて読んだらどうするのだろう…)
ドーキンスの俎板上に乗るのは、上記の科学アレルギー者たちだけではない。科学啓蒙家としては先輩格であるスティーブン・ジェイ・グールドに対しても、科学を“偽りの詩”で語り、読者を間違った方向に導いていると批判している。
文学も哲学も“と本”もおもしろいし、グールドの本はわかりやすい。そう言われてもどうしようと思いながらも、ドーキンスのエネルギーあふれる怒涛の寄りに降参。一気に読了。DNA鑑定、宇宙膨張論、音響論なんて非常に刺激的で、センスオフワンダーを満喫させてもらった。
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