九つの物語からなるSF連作短編集だ。読み始めて最初の章から、どっぷりはまってしまった。女性にしか書けないタイプの、読者の感性をぐいぐいゆさぶる物語だ。著者・菅浩江はただものではない。
舞台は、地球と月の間に浮かび、地球上では絶滅しつつある動植物、美術品、音楽、舞台芸術等を集め保護する、巨大博物館「アフロディーテ」。
“テーマは芸術”だ。登場する芸術は、精神病患者が描いた一枚の抽象画、夏に雪を降らせる奇跡を演出するという笛方の家元襲名披露、下り坂に差し掛かっているダンサー、バイオの力を組み込んだオルゴールと自動人形、ピアノ「九十七鍵の黒天使」等々。言い直そう。“テーマは”芸術作品は博物館に大切に風化しないように保管されるべきなのか?それともその瞬間瞬間にきらめくことによってのみ命を与えられるものなのか?ということだ…、と勝手に解釈した。
SFだからって敬遠しないで欲しい。ぜひ、芸術から人類への美しいラブソングに酔ってもらえればと思う。
仕事がら興味深かったのは、「直接接続者」と呼ばれるアフロディーテの学芸員は、手術によってコンピュータのデータベースと直結され、イメージを思い浮かべるだけでデータの検索・絞込みができる、ということだ。最新バージョンは主観的印象や情動さえも検索条件に含むことができる…。ひょっとして、これって、WEBページを検索するように博物館のデータベースにアクセスする、未来型の検索エンジンのことなの?こんな検索エンジンならば、手術を受けてでも使ってみたい。 |