久しぶりに骨のあるノンフィクションを読んだ。これは「本」殺人事件をめぐる詳細な捜査報告書だ。主犯として活字離れの若者像が、従犯として悪書を粗製濫造する版元が、社会派的調味料としてのディスカウンターや新古書店による安売りデフレを絡めれば、簡単に解決してしまいそうなケースかもしれない。しかし、著者は先入観を持たず、全関係者を洗い直していく。版元、編集者、流通、書店、図書館、はては書評自体までが一容疑者として扱われる。現場は隅々まで掘り返され、事情聴取が繰り返され、背景・アリバイが追求され、徹底的に調べ尽くされていくことにより、被害者「本」の生涯が明らかになっていく。……。本好き活字中毒者はもちろん、本そのものが持つ幻想としての知にうさんくささを感じている方にも、ぜひ一読をお薦めしたい。ところで、本を殺したのは誰?真犯人は?犯人が似ているミステリーは次のうちどれでしょう?
- 『そして誰もいなくなった』
- 『アクロイド殺人事件』
- 『オリエント急行殺人事件』
そんなクイズをしている場合じゃない。ひょっとするとこれは、単なる「本」の殺人事件ではなく、一つの文化に対するジェノサイドなのかもしれないのだ。 |