時を超えてめぐり会う2人の2つの話。
久しぶりに、急ぎの仕事がない休日。まとめて小説を読もうと思い、平積みの中から選んだ2冊。偶然2冊とも、テーマは時を超えためぐり会いだった。ハーレクインのファンはもちろん、心の油の切れかかったおじさんやおばさんも、たまにはロマンチックな小説世界にひたってみては。
『リセット』 北村薫(新潮社)
淡々とした展開と、あっと思わせる仕掛けの両立が、北村薫の特徴だ。戦前戦中のお嬢さんの日常が描写されていく前半。戦後、中年男性の少年時代の回顧録がつづられる中盤。ちょっと退屈かもしれないが、読むのをやめないで欲しい。再びめぐり会った2人。ヒロインのある一言に、この作品のすべてが表現されている。平凡でたいくつだったかも知れない日常が、ふと大切で愛おしくなる瞬間だ。これこそ、作者がこれまでのすべての作品で伝えているメッセージではないか。だから「リセット」なんてする必要がないのだ。作品の構成自体の中にメッセージを仕掛ける、この手法。北村薫の推理小説作家マインドにまたまた脱帽。
『ライオンハート』 恩田陸(新潮社)
結ばれることなく永遠に2人はめぐり会いつづける。それは、世界が金色に弾けるような心躍る瞬間だが、一瞬の邂逅であるため、あまりにもせつなく悲しい。雨のロンドンで、予言に導かれて林檎の木の下で、建設中のパナマ運河での、時を超え、場所を超えた、短いひとときの出会いのために、それぞれの人生を生きていく2人。そして“エリザベス”を経て、最終話に…。このただの大甘話になりかねない設定を、乾きめの短いセンテンスで描写、読者を小説世界にのめり込ませてしまう。恩田陸よ、泣かせてくれるじゃないか。 |