MAGAZINES & PAPERS

Keikyoレポート『ビジネスコーチング』

「会議でのコミュニケーション」

No.633 平成18年4月

組織において、会議やちょっとした打合せなどは、日常の一部です。電子メールが当たり前のように使われ、情報伝達のスピードは以前より飛躍的に高まりました。しかしそれでも、直接顔を合わせて話し合う機会である会議が、なくなることはありません。ちょっとでも込み入った話だったり、ひとりひとりの合意を確実に取りたい場合だったりするときは、会議という形式がもっとも効果的だといわれています。このように、会議は組織運営に欠かすことのできない時間であるだけに、その場に参加するときに気をつけなければならないことがあります。

会議で発言するときは、「私」から「あなた」へ向けてのコミュニケーションは適切ではありません。「私」と「あなた」という関係は、相対する関係を意味するので、組織においては、「個人」と「組織」という関係となり、その発言は第三者的なものになります。組織における第三者的な発言は、不信を買います。組織は、利己的な発言や行動に敏感に反応するからです。特に管理職は、組織における個人の言動、行動、態度などはすべて、組織全体の利益に向けられていなければならないと考えているものです。したがって、会議で発言するときは、「私」から「あなた」、もしくは「あなたたち」に向けるのではなく、「私たちのひとり」から「私たちのひとり」に向けているという意識が必要です。同じ輪の中にいること。それを前提として発言するのです。

コミュニケーションで注意しなければならないのは、コミュニケーションを交わして、自分が相手にどのような影響を与え、同時に、自分がどのような影響を受けているかを察知していることです。私たちが簡単に陥る罠に、「関係の二極化」というものがあります。コミュニケーションというは、基本的に同意に向けてキャッチボールが繰り返されるものですが、言葉上の同意がとれているにも関わらず、感情面で不全感が残ることがあります。それは、コミュニケーションの最中、無意識にどちらが、上か下か、勝っているか負けているか、正しいか間違っているか、損か得か、知っているか知らないか、といった二極化に陥っていることを意味します。どちらかが、二極化に陥り、その決着をつけようとすることへのこだわりが抜けないままでいると、言葉上での同意はあっても、そこに不全感が残ります。しかし、本来、組織における議論とは、組織にとってどれが最善で、役に立つ考えかを選ぶためのものです。そのときには、常に「私たちのひとり」として「私たちにとっての利益」を前提に、議論する必要があるのです。そしてその前提として、相手が上司、部下に関わらず、相手の意見を尊重する姿勢を示すことが大切です。

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「コミュニケーションの価値」

No.634 平成18年5月

「コミュニケーションは大事だ」というのは、おそらく多くの人に共通した認識だと思います。しかし実際には、組織において人がコミュニケーションに対して抱いている認識とは、次のようなものではないでしょうか。

・組織において、テノクノロジー、生産性、などのハード面から見るとコミュニケーションはソフトな問題で、優先順位が低い
・コミュニケーションとは、個人の問題であり、組織の問題ではない
・コミュニケーションは空気のようなものである
・コミュニケーションについてはわかりきっている
・コミュニケーションと生産性は特に関係はない
・コミュニケーションは組織のスピードを遅くする
・コミュニケーションは組織を混乱させる 時に、浪費を生じさせる
・コミュニケーションよりは、規則、予測、費用対効果、効率、ハイパフォーマンス、モティベーション、確実な収益、投資の回収、プラン、役割、経験、スキル、リーダーシップなどが優先する

「大事だね」とは言いながらも、コミュニケーションは一般的に、会社組織の中にあって「価値を生み出すもの」としてではなく、「空気のように自然で、あたりまえのもの」と考えられているのではないでしょうか。組織は、くもの巣のように張り巡らされたコミュニケーションの中で働いています。私たちは、コミュニケーションを交わすことでものごとを認識し、行動を選択しています。コミュニケーションがなければ、もちろん組織は動きません。コミュニケーションは、組織が組織として存在し続けるために、欠かすことのできないものです。私たちは、そのことについて薄々気づきながらも、そこに投資するというところに意識はなかなか向きません。

しかし、実際には、社内のコミュニケーションに着目し、それを改善することで、飛躍的に業績を伸ばしたり、リスクを減らしている企業が生まれているのも確かです。たとえば、離職率の高い組織で、部課長全員が「聞く能力」を上げるためのコーチングを受け、離職率を5分の1に減らすことに成功したという例があります。また、2時間の会議で1時間55分話し続ける経営者が、コーチングを受けて発言時間を30分に制限し、他の取締役の発言を促すようになり、それが大きく業績に影響したという自動車のディーラーもあります。

組織内のコミュニケーションの質が低ければ、品質、社内のモラル、モチベーション、チームワーク、顧客に対するサービスに影響が出るでしょう。コミュニケーションは、個人と組織に確実に価値をもたらします。少なくともコミュニケーションは単なる情報交換などではありません。そのためにも、コミュニケーションについての理解を深める必要があります。コミュニケーションについての解釈を広げたり、見直したりする機会を失うと、知らない間に資源の無駄遣いが起こってしまうからです。

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「上司に求められる能力」

No.635 平成18年6月

上司として部下に受け入れられるためには、いくつかの試金石があります。単に人がいいだけで部下がついてくるわけでもなければ、仕事ができるという理由だけでも部下はついてきません。また、理論を理解しているだけでは、部下育成はできません。部下は、上司が、日常遭遇する問題を、どのように解決しているか、その手際の良し悪しを見ているものです。

たとえば、部下をもつビジネスマンの多くが抱えている次のような問題について、あなたは解決策をもっているでしょうか。

1. 指示待ち・受け身の部下の自発性をどう高めるか
2. 報告・連絡・相談をしない部下のコミュニケーションをよくするには
3. 納期を守らない、遅刻をする部下にどうやって責任感をもたせるか
4. 営業が苦手で萎縮している部下を行動させるには
5. 現場や他部門と話をしない部下のコミュニケーションを促進するには
6. 目標やビジョンを持てない部下への関わり方
7. 仕事に自信がない部下に自信をもたせる関わり方
8. 顧客志向のない部下の顧客意識を高めるには
9. 会議で発言しない部下が発言できるようになる関わり方
10.自分の利益にしか関心がない部下に、会社に関心を持ってもらうには
11.自分にしか興味がなく、後輩を育成しない部下の意識を変えるには
12.自己主張が強く、人の話を聞かない部下の協調性を高めるには

以前、講演先で「部下が茶髪で会社に来たが、そういうときはどうしたらいいか」という質問を受けたことがあります。なぜ「茶髪で来るな」と言えないのかを尋ねると、「社則で特に禁止していない。しかし、客先には行かせられない」と言います。重ねて「あなたはどうしたいのか」と聞くと、「もちろん茶髪はよくないと思うが、理解がないようにも思われたくもない」という答えが返ってきました。また、同じく講演先で「部下が何の前ぶれもなく、突然辞表を持ってくる。そういうときはどうしたらいいか」という質問を受けたこともあります。部下が会社を辞める兆候には気づかなかったのでしょうか? 彼は、その部下と前日まで普通に話していて、突然の辞表にショックを受け、自信も失っていました。一般論では解決できませんが、こうしたケースでは、表面的な会話は共有されていても、本音のところでのつながりに乏しいのかもしれません。いずれにしても、目先の方法論でこれらの問題は解決できなません。上司には、一歩踏み込んだコミュニケーションを創りだすことが求められているのです。

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「イエスを要求しない」

No.636 平成18年7月

上司のする質問の多くは部下に「yes」を言わせるためのものです。たとえば上司が「元気か?」と聞けば、当然部下は「はい」。「仕事は順調か?」部下の返事は「はい」。また上司は、自分の求めている答えに部下を誘導しようと試みます。「このところ、あまり私の言っていることをちゃんと聞かれていないように思うんだけどどうだろう?」「いえ、そんなことありませんよ」。そうやって、自分の不安を解消します。また、質問を使って相手を貶めることもあります。「どうも私の求めている答えは、君からは得られないようだね」つまり、最初から正解をもって質問をしている訳で、正確には、部下を試しているにすぎません。それから、質問をしながら結局は、自分の意見をそこで展開します。「僕はこう思うんだよ、君はどう思う?」それに部下が反対意見を言えるわけもありません。しかし、これらの過程を通して部下は学習します。「適当に答えておこう」「当たり障りのないことを答えておこう」。結局、上司は部下に、いいようにあしらわれるようになります。質問の質が低ければ、当然それなりの代償を支払うことになるのです。言うまでもなく、コミュニケーションにはいくつかの約束事があります。たとえば、質問をして相手がどんな答えを返してきたとしても、まずは「質問に答えてくれてありがとう」、「このコミュニケーションに参加してくれてありがとう」。もし、部下が自分に質問をしてきたなら、「質問をしてくれてありがとう」なのです。もちろん、毎回言葉にする必要はありませんが、その気持ちを伝えるような表情は必要です。

また、質問はテストではありません。ましてや評価でもない。私たちは、質問を通してテーマをはっきりさせ、それを深めていきます。質問とは、お互いへの理解を深めるものなのです。質問に対して正解を求めてばかりいると、部下育成に失敗します。部下は質問に対して伸び伸びと、自由でいられることが大切です。正解だけを求められるようになると、部下は萎縮してしまいます。もし、CSを上げるために、サービスの質を上げようと思うのであれば、サービスとは何かついてレクチャーするのは、ブービーです。そして、どんなサービスが求められているかを質問するのは、ブービーメーカー。「どんなサービスをしてみたい? 自由にどんなことでもいいとしたら、どんなサービスをしてみたい?」その結果、出てくる答えがまるで使えないものだとしても、「どんなサービスをしてみたいか?」それについて心に留めるようになるだけで、サービスの質は変わってくるのだと思います。

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「上司への効果的な質問」

No.637 平成18年8月

リーダーという役割を与えられると、「何でも知っている」「なんでもやれる」べきだと思いがちだし、思われがちです。「リーダーとは、聞かれたこと全てに、速やかに、正しい答えを与えなければならない」。それがリーダーの条件だと思われているところがあるものです。あるコンサルタント会社のパートナーは、「部下に技を見せたり、切れるところを見せないと、部下はついてこない」と言い切っていました。しかし、優れたリーダーは、知らないことは、知らないと認め、それを表現するものです。また、答えにくい質問をされたときには、虚勢をはらずに、真摯な対応をすることができます。「それは、答えにくいですね。難しい質問です。次までに考えさえてください」など。

一般に、リーダーの条件とは、判断力、カリスマ性、強引さ、正直さなどが考えられます。しかし、リーダーに求められるのは、質問されたことに対する真摯な態度、そして、相手を啓蒙する「効果的な質問」を創り出す能力にあります。リーダーシップには、効果的に視点を動かし興味をかきたてるような質問を、その場その場で創り出す能力が必要とされています。

また、効果的な質問は、単に部下に対してだけではなく、上司に向けてもなされます。たとえば、上司が会社のビジョンをなかなか話してくれない、またはそれが不透明であるときには、それを嘆いたり、愚痴っても始まりません。それよりも「この1年で会社 はどう変わると思いますか?」という質問をすることで、上司がビジョンを話す手助けになります。また、直接ビジョンについて質問していなくても、実はビジョンを聞くことができる質問の仕方もあります。「これから、われわれの業界はどうなって行くと思いますか?」という質問も機能します。「この3年で、会社はどの程度成長したでしょうか?」という質問もあります。

こうしてみると、質問は単にわからないことを聞くためのものではなく、お互いの「視点を変える」「ビジョンを明らかにする」「問題点を明らかにする」「リソースを見つける」など、さまざまな目的があることに気がつきます。また、創造的な質問をすることで、本人さえも気がついていない「アイディア」を引き出すことができます。「もし、何の制限もないとしたら、君は何をしようと思いますか?」「あなたが、経営者なら、一番最初にやることはなんですか?」これらは、会社の批判をする上司に対して、有効な質問になります。効果的な質問は、質問に答える側の可能性を広げることに役立ちます。それは、上司であっても例外ではありません。

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「自分への効果的な質問」

No.638 平成18年9月

コーチングでは、会話の相手に効果的な質問をしますが、人とのやり取りだけではなく、自分自身への質問も重要です。自分自身への効果的な質問は、人の成長に欠かせないものです。

自分自身に無意識にしている質問を知ることは、人が自分自身について知る機会になります。仕事や人生でうまくいっている人たちは、自分に対して効果的な質問をして、自分の仕事への態度や人生そのものを常に検証しています。効果的な質問とは、パターン化されがちな考え方や行動に縛られず、視点を変え、新しい行動へ向かわせる質問のことです。

たとえば、問題の解決を迫られたり、障害にぶつかったりしたときに、みなさんは自分にどのような質問を投げかけていますか。「どうしたらいいんだろう?」「なぜ、こんなことをしてしまったんだろう?」といった、自分をますます袋小路に追い込むような質問をすることはないでしょうか。

効果的な質問とは、具体的に問題を解決する糸口を見つけるような質問のことです。例えば、「この問題の解決策を3つあげるとしたら、それは何か?」「問題を解決するのにどの程度の時間をかけることができるか?」「相談するとしたら、誰に相談するか?」「この問題を解決できたら、自分にとってどんないいことがあるだろうか?」といった質問があげられます。

中には、「普段から自問自答をしているし、それによって行動を決めている」という人もいるかもしれません。ですが、自分自身にどのような質問や言葉を投げかけているかを冷静に捉え、その傾向を分析している人は少ないでしょう。もし、無意識のうちに「自分は本当は能力がないのではないか?」「どうして同じ失敗ばかりしているのだろう?」「なぜ、あれをしなかったんだろう?」「なぜ私は幸せではないんだろう?」「私はこのままでいいのか?」といった質問や言葉を自分に対して投げかけていたら、当然行動は萎縮するし、気持ちも明るくなりません。

自分にどのような質問を投げかけているか、また、どのような質問が自分にとって有効かを観察し、新たな質問を試すことは有効です。新しい質問の例としては、「1年後に自分はどうなっていたいだろうか?」「自分はどんな人として記憶されたいだろうか?」「仕事への熱意はどこから持ってくることができるだろうか?」などの質問があげられます。これらは、自分についての新たな発見をもたらし、仕事や将来へのモチベーションが高まる質問です。

自分に投げかける質問や言葉が変われば、行動も変わります。そして自分にフィットする新たな質問を見つけることができれば、行動の選択肢が広がります。更にそれを毎日問いかける習慣をつけておくと、効果的に行動を変容させることができます。質問を準備し毎日自分自身に問いかける、それを習慣化するだけで、飛躍的に将来の可能性を広げることができるのです。

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「質問の原則」

No.639 平成18年10月

質問をするときには3つの原則があります。1つ目の原則は、質問は一回にひとつだけにするということです。一度に複数の質問を投げかけると、答える側にとっては苦痛です。たとえば、「経費を節減するためには、どうしたらいいと思う?」「君のコスト感覚について話してほしい」「このままいくと、会社は将来どうなると思う?」と立て続けに質問されると、どれに答えてよいか分かりません。複数の質問をする背景には、質問をする側の「不安」が反映される場合が多く、質問という名の「詰問」になりがちです。それが余計に質問される側を混乱させます。質問は一回にひとつとし、質問をした後は、相手に考える時間を与えることが大切です。

2つ目の原則は、質問を重ねることです。大抵の上司といわれる人は、部下に質問をひとつして終わります。「どうだ、調子は?」「元気か?」「例の仕事はどうなっている?」そして、答えを聞いて「あ、そう。がんばれよ」と言います。これでは、部下への理解は深まりません。マネージャークラスの社員に対して、もっとコミュニケーションの量を増やして欲しいと言うと、「何を話したらいいのかわからない」「用もないのに話さない」という答えが返ってきました。質問は「会話」をスタートさせるきっかけになるのです。

「元気か?」
「はい」
「元気を維持する秘訣は何?」
「休みにはフットサルをやっています」
「ほう、どこでやっているのかな?」

質問をひとつで終わらせるのではなく、続けることで、部下への関心を示し、部下を理解するために会話を続けることができます。アメリカの心理学者であるハーレーン・アンダーソン氏の質問はいつも刺激的です。彼女は私に「あなたってどんな人?」と質問し続けます。彼女は、最初に会った日も、二日目も、三日目も同じ質問をしました。しかし、同じ質問でありながらも、毎回それは新鮮であり、答える私自身も、自分について新鮮に答えることができました。そこには、正しい答えを求めているのではなく、自由に思ったことを言っていい、矛盾していてもいい、という前提があったからです。

そして、3つ目の原則は、お礼を伝えることです。私の答えたことに、彼女は常に「ありがとう」と言ってくれました。「ありがとう」でもいいし、「話を聞けてよかった」でもいいです。お礼を伝えられると、自分の話が受け入れられた、と感じることができます。これは相手に自分の存在が受け入れられた、という感覚につながります。お礼を伝えることが、次の会話へとつながっていくのです。

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「質問をして、そして聞く」

No.640 平成18年11月

質問をする際には、まず効果的な質問をすることが大切です。ですが、効果的な質問をするだけでは不十分で、相手の答える時の言葉をよく聞き、観察することも大切です。その上で、次の効果的な質問をつくり出します。つまり、質問には連続性が求められます。ひとつの事柄に対して、観察に基づき、連続した質問をすることによって、創造性、自発性、気づきを生み出すのです。

コーチングでは、用意された質問を繰り返すだけでは何も起こりませんし、発展もしません。コーチングは、クライアントの行動やあり方にシフトを求めます。シフトを生み出すには、効果的な質問をし、観察しながらよく聞き、また質問をするというプロセスが大切なのです。

話を聞く際に重要なことは、次の5点です。

1.待つこと。そして、もっと待つ。

聞くことは、次に自分が話すための順番を待っているのではありません。次に自分が何を言うかを考える時間でもありません。相手の話を聞くことはもちろん、相手が十分に考えて話せるようにすることが大切です。

2.正直でいる

話している内容が理解できないときには、分かったふりをしていないで、そのことを伝えます。

3.相手の求めていることを聞く

相手が何を求めているのか、今自分に何を要求しているかを聞き取ります。コミュニケーションのベースには、常に要求があるので、それを聞くことが大切です。

4.ネガティブな反応をしない

「それは前に聞いた」「その数字は間違っている」「論旨が定まらない」等々は言いません。たとえそうであっても、訂正を入れたり、批判することは、話し手が自分の創造性とアクセスするチャンスを奪ってしまいます。

5.自分がそこにいることを伝える

私たちは、話している最中に聞き手の不在を感じることがあります。目の前にいることはいるのですが、自分に対する興味を失っていると気づくのです。相手に「聞かれていない」と感じると私たちは話す意欲を失います。

「はい」「そうですね」「なるほど」「ほう」の相づちをうつことは「私は聞いています」そして「話を続けてください」という気持ちを伝えます。相手の話に興味を持ち、相づちを打つことは大切です。

このように、質問だけではなく質問の後の姿勢がとても重要なのです。聞き手が興味を持って話を聞いていると、クライアントはもっと自分のことを話したくなります。クライアントの話をよく聞くことは、効果的な質問にもつながります。質問をして、聞く、この連続性がクライアントの創造性を生み出すのです。

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「質問を作り出す能力」

No.641 平成18年12月

効果的な質問は、相手の視点を変えます。どんな名言も、質問を受けて自分で考え出した「答え」には及びません。絶えず部下に指示し、命令していると、従順な部下は育ちますが、創造性に富んだ人材を失うことになります。多くのマネージャーは自分が正しい答えを持っていなければならないと思いがちですが、それよりも、効果的な質問を創りだし、部下に考えさせる方が部下は成長します。

しかし、効果的な質問をタイムリーに創り出すのは簡単なことではありません。本などで知った質問がよさそうだからといって、その質問をそのまま使えるわけではありません。質問は「今ここ」で創るものだからです。質問が機能するためには、それだけの条件を必要としています。それが質問を創り出す能力につながっているのです。

第一に、「場」が読めなければなりません。ゴルフの最中に仕事の話を持ち出されたり、周りに知らない人が大勢いる中でプライバシーに関する質問をされたりするのは不快です。逆に、質問が機能する「場」を最初に創る必要があるといってもよいでしょう。「場」が整わないうちは、たいてい、質問をされても一般論で答えたり、いい加減な返事をしたりするものです。

第二には、質問の目的が何であるかが、質問をする側にも、それに答える側にも、分かる必要があります。新しいアイディアを考え出したいのか、意見や態度を引き出したいのか、同意をつくりだしたいのか。あるいは助けやアドバイス、情報提供が必要なのかなど、その質問の目的がシェアされているかどうかによって、質問の生命力は変わります。

第三に、お互いの関係性が大切です。信頼関係が築かれていないところで、立ち入った質問をしても拒絶されます。また、信頼関係があっても、質問の仕方によっては、関係が壊れることもあります。質問をされる側が、何かをはっきりさせてみたい、行動を起こすために見通しのいい状態をつくりたい、と思わない限り、質問に答える理由はありません。逆に今ここで交わされている会話が、確かに有益で、価値あるものであるという認識が双方にあれば、答えるのが難しい質問であっても、質問された側は、答える努力をします。質問される側に、答える価値があると思わせることは、信頼関係なしには困難です。

よいコーチは、興味を喚起する質問を創り出しています。質問されると、わくわくするのです。それは、質問する側の、その人に対する興味が大きく影響します。その興味が伝わって、やがて、質問される側も自分に対する興味が湧いてくるのです。そのサイクルが生き生きとした会話をつくり出します。

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「コミュニケーションスキル」

No.642 平成19年1月

コミュニケーションスキルを上げることは、コーチングの重要な目的のうちの一つです。コミュニケーションスキルとは、「聞く」「質問する」「リクエストする」などが代表的なものですが、これまでの連載もほとんどすべてがコミュニケーションスキルに関するものといえます。コミュニケーションスキルは、人との関係を円滑にしたり、仕事を効率化したりする、価値を生み出す非常に大切なものです。

では、具体的には何をもってコミュニケーションスキルが高いと考えるのでしょうか? そのことについてアンケート調査を行ったところ、次のような回答が寄せられました。

・「誰にでも」「いつでも」同じ態度で接することができる
・興味をもって対応出来る
・想定外の質問を受けた場合、もっとも明快で単純でわかりやすい回答をすぐに返すことができる
・自分の考えを正確に伝えることができる
・相手から必要な情報を引き出すことができる
・グループ内で情報を共有化し、課題を明確化することができる
・日頃から、上司、部下、同僚と十分なコミュニケーションを交わしている
・相手の立場に立った考え方をする
・その場の雰囲気を感じ取って、その場の雰囲気に合わせた話し方や話題を提供できる
・自分から進んで、どんな人にも挨拶をする
・感情的にならず、落ち着いて話ができる
・威圧感なく相手の気持ちを吸い上げられる
・相手の言うことに真摯に耳を傾ける
・いろいろな状況やことを“受け入れる”姿勢をもっている
・対人関係において、決して冷たさを感じさせない
・相手のことを理解してから、自分のことを理解してもらおうとする
・相手を尊重する態度を示すことができる
・初対面の人とも話題の接点を探りながら会話ができる
・自分の発言から逃げない

これらを見ると、コミュニケーションが単に知的で論理的なものというだけではなく、豊かな感受性を必要としているものだということが分かります。誰にでも真摯で、平等な態度で接する。感情のコントロールができている。相手の話に耳を傾ける。これらのことは知性だけでは実現できません。

また、二人の間でのコミュニケーションだけでなく、三人以上の「場」でも、その「場」を読む能力が求められています。「場」にふさわしい話題、「場」にふさわしい言葉の選び方には、相手の気持ちを察する能力も求められています。これもやはり感受性なしにはうまくいきません。

最後に、今の自分のコミュニケーション能力に対して「フィードバック」を受け、自分のコミュニケーションを改善してゆこうとする姿勢も大切です。フィードバックを受けることがコミュニケーション能力を高める最も効果的な方法だからです。自分がどのようなコミュニケーションをしているのか、できるだけ多くの人からフィードバックをもらうことです。

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「チャンクを活用する」

No.643 平成19年2月

コーチングのほとんどは「質問」によって成り立っています。コーチング・カンバセーションはもちろんのこと、コーチングのツールとして使われるアセスメントも「質問」であり、コーチングの宿題にも、質問が多く含まれています。

実は質問には大きさがあります。一番大きなかたまりをビッグチャンクと呼び、それをややくだいたミドルチャンク、もっと具体的にしたスモールチャンクの3種類の大きさがあります。チャンクとは、「かたまり」という意味です。かたまりをほぐして、バラバラにして小さくしていくことを「チャンクダウン」といいます。逆に、散らばっているものをひとつのかたまりにと大きくすることを「チャンクアップ」といいます。

たとえば「仕事は好きですか?」という質問はビッグチャンクです。この質問だと、ほとんどの場合、答えは「はい」か「いいえ」のいずれかで終わってしまいます。しかし、より具体的に「仕事のどこが好きですか?」という質問になれば、答える方も具体的になります。これがミドルチャンクの質問です。さらに具体的に、「仕事でいちばんやりがいのあることを3つ挙げてください」というスモールチャンクの質問では、答えはよりリアルになります。

つまり、チャンクアップやチャンクダウンをすることで、相手にとって答えやすい、より効果的な質問をすることができるのです。戦略的にチャンクの大きさを選ぶこともできます。最初から具体的な質問をしてしまうと、答えにくいと感じる相手もいます。そういう相手に対しては、ビッグチャンクの質問からチャンクダウンしていく方法が有効です。一方、結論を急ぐタイプには、最初から、「いつ、何を、誰と」といった具体的なスモールチャンクの質問が有効です。

チャンクの使い分け方としては、部下に仕事をさせるときにはスモールチャンク、考えさせるときにはミドルチャンク、覚えさせるときにはビッグチャンクというのが目安です。

応用編になりますが、質問に対する質問もできます。たとえば「あなたについて教えてください」といった大きな質問をされたときに、その質問に答える前に「特にどんなことについてお知りになりたいのか教えてください」と、チャンクダウンした質問をすることで、答えを相手の求めているものにより近づけていくことができるようになります。また、たまに質問されて不快になることもありますが、「なぜ、そんなことを聞くのか?」と感情的になるのではなく、一度チャンクダウンした質問を投げ、相手の知りたいことが何であるかを聞いてみることは有効です。

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「パラダイムシフト」

No.644 平成19年3月

うまくいっている、いっていないにかかわらず、人間は一つの考え方、一つのやり方に支配されています。これがパラダイムです。パラダイムは、人との関係のつくり方、問題にぶつかったときの対応の方法に現れます。そしてそのほとんどは、実はワンパターンなものです。多くの人は自分がワンパターンな行動をとっているのを自覚していませんが、自分以外の人たちがワンパターンな行動、発言を繰り返していることには気がついています。「おやおや、まただ」、「いつものお決まりだ」。

私たちは、人との関係において、知らない間にさまざまな「前提」や「枠」をつくっています。たとえば、目の前の人が自分にどのような影響を与えるかは、本当は確かめないと分かりません。ですが私たちは、いろいろな「前提」や「枠」を自分で勝手につくってしまいます。たとえば、その人との関係において一度でも不快な経験があれがば、その人が自分に悪影響をもたらすと思い込んでしまうのです。

私たちが同じ考え方、行動にこだわるのには理由があります。それは、少なくともここまでは、その方法でうまくいってきたからです。また、これから先、新しい考え方や行動をとって失敗したくない、という思いもあります。特に上の立場にたてば、なおさらリスクは負いたくないと思うものです。

しかし、状況は常に変化しているので、リーダーは常に未来を予測し、先手を打たなければなりません。先手を打たなければならないことついては十分理解しているのですが、それに行動が伴うわけではないことが問題です。頭でわかっていることと、実際の行動の間には深い溝があります。その溝を越えるのは容易なことではありません。

彼らに行動を起こし、変化を起こしてもらうためには、コミュニケーションが必要です。それは、百戦錬磨のエグゼクティブに外側からモチベーションをかけるということではありません。最も効果的なコミュニケーションとは、20%の意見と80%の質問です。大抵の人はその逆で、80%の意見を提供し、20%の質問をしています。そうではなく、80%の質問をし、エグゼクティブの目を未来に向け、可能性を開くのです。

たとえば、「どうやって考える時間をつくっていますか?」と聞かれるより「どんな時に集中して考えることができますか?」と聞かれる方が答えやすいでしょう。「今、どんなビジョンを持っていますか?」よりは、「1年後に、この部はどんな変化を遂げると思いますか」の方が答えてみたい気にさせます。効果的な質問とは、それに答える過程で、パラダイムシフトを生じさせるのです。

人はひとりではパラダイムシフトを起こせません。ですが、効果的な質問を通して自分の作ってきた「前提」や「枠」に気付き、それを超えることができます。私たちがパラダイムシフトを起こすには、コミュニケーションが不可欠なのです。

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