MAGAZINES & PAPERS

日経産業新聞『部長講座』

「効果的な質問をするには」

2006/06/07

○部下に考えさせ成長促す

効果的な質問は、相手の視点を変える。相手に、普段考えていなかったようなことを考えさせる。どんな名言も、質問を受けて自分で考え出した「答え」には及ばない。絶えず部下に指示し、命令していると、従順な部下は育つが、創造性に富んだ人材を失うことになる。多くのマネージャーは自分が正しい答えを持っていなければならないと思いがちだが、それよりも、効果的な質問を創りだし、部下に考えさせる方が部下の成長は著しい。

効果的な質問は、相手の視点を変える。相手に、普段考えていなかったようなことを考えさせる。どんな名言も、質問を受けて自分で考え出した「答え」には及ばない。絶えず部下に指示し、命令していると、従順な部下は育つが、創造性に富んだ人材を失うことになる。多くのマネージャーは自分が正しい答えを持っていなければならないと思いがちだが、それよりも、効果的な質問を創りだし、部下に考えさせる方が部下の成長は著しい。

しかし、効果的な質問をタイムリーに創り出すのは簡単なことではない。第一に、「場」が読めなければならない。ゴルフの最中に仕事の話を持ち出されたり、周りに知らない人が大勢いる中でプライバシーに関する質問をされたりするのは不快である。第二には、質問の目的が何であるかわからなければ、相手は答えられない。質問をする側も、それに答える側も、質問の目的を知っている必要がある。新しいアイディアを考え出したいのか、意見や態度を引き出したいのか、同意をつくりだしたいのか、助けやアドバイス、情報提供など、その質問のターゲットが何であるかによって、質問の生命力は変わる。第三に、お互いの関係性。信頼関係が築かれていないところで、立ち入った質問をしても拒絶されるだけである。また、信頼関係があっても、質問の仕方によっては、関係が壊れることもある。これまでに築かれた関係の上だけで質問をするのは考えものである。それ以上に、今ここで交わされている会話が、確かに有益で、価値あるものであるという認識が双方にあれば、答えるのに難しいと思われる質問であっても、質問された方は、答える努力をするであろう。

質問には、答えを要求するという力がある。本などで知った質問がよさそうだからといって、その質問をそのまま使えるわけではない。質問は「今ここ」で創るものだからである。コーチはそのセンスを磨く。

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「質問がもつ「大きさ」」

2006/06/14

○チャンクうまく使う

コーチングのほとんどは「質問」によって成り立っている。コーチング・カンバセーションはもちろんのこと、コーチングのツールとして使われるアセスメントも「質問」であり、コーチングの宿題にも、質問が多く含まれる。

さて、実は質問には大きさがある。たとえば「仕事は好きですか?」という質問。この質問だと、ほとんどの場合、答えは「はい」か「いいえ」のいずれかで終わってしまうだろう。しかし、より具体的に「仕事のどこが好きですか?」という質問になれば、答える方も具体的に考えざるを得ない。さらに具体的に、「仕事でいちばんやりがいのあることを3つ挙げてください」という質問になれば、答えはよりリアルになってくる。この場合、最初の質問は、質問のサイズが大きく、3つめになるとサイズが小さくなる。つまり、質問のかたまり(チャンク)を大きくしたり(チャンクアップ)、小さくしたり(チャンクダウン)することで、相手にとって答えやすい、より効果的な質問をするのである。

最初から具体的な質問をしてしまうと、答えにくいと感じる相手もいる。そういう相手に対しては、やや大きめの質問をして、チャンクアップから、チャンクダウンしてくる方法が有効である。一方、結論を急ぐタイプには、最初から、「いつ、何を、誰と」といった具体的な質問が有効である。

応用編になるが、質問に対する質問としても、チャンクアップとチャンクダウンを使うことができる。たとえば「あなたについて教えてください」といった大きな質問をされたときに、その質問に答える前に「特にどんなことについてお知りになりたいのか教えてください」と、チャンクダウンした質問をすることで、答えを相手の求めているものにより近づけていくことができるようになる。

質問は、必ず答えなければならないものではない。質問に対しても質問をすることができる。たまに経験する不快な質問に対して「なぜ、そんなことを聞くのか?」と感情的になるのではなく、相手の知りたいことが何であるかをはっきりさせるためにチャンクダウンした質問をするという方法は有効である。

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「自分への質問で視点変わる」

2006/06/21

○優先順位などはっきりと

私たちは、質問というのは、何かわからないことがあってするもので、その先にはその質問に答える人がいるという前提で考える。しかし、質問にはもっと別の用途があり、単にわからないことを明確にするためだけのものではない。質問を用いることで、自分の価値観をはっきりさせたり、自分の優先順位をはっきりさせたるためにも使うことができる。

アメリカのエグゼクティブコーチであるマーシャル・ゴールドスミス氏は、自分の子どもに質問をした。「どうやったらもっといい父親でいることができるだろうか?」この質問で娘から手にした答えは、彼の家族との関係を変えただけではなく、仕事の質そのものを変えたと彼は言う。また、彼は、コーチとして「質問」をするだけではなく、自分のコーチやパートナーに、自分に対してして欲しい質問を用意して、それを質問してもらうという。たとえば次のような質問だ。

・今日の優先順位の一番はなんですか?
・今日で終わりにすることはなんですか?
・健康のために、今日は何をしますか?
・チームに対してどんな貢献をしようと思っていますか?
・今日は何歩歩きますか?

仕事、健康、人間関係、コミュニケーション、これらについて定期的にコーチやパートナーに質問をしてもらう。時間にして、3分から5分であるが、自分を振り返り、自分の行動や周りへの影響を知るために効果的である。自分に対して毎日質問したいことを、20前後用意して、それをメモにしておき、そのまま質問してもらう。同じ質問ならば答えは決まっているように思うかもしれないが、毎回新鮮に答えられることに驚く。してもらう質問を毎日多少入れ替えたとしても、自分の用意した質問を自分に向けてしてもらうことで、確かに視点は変わる。

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「部下による上司の評価」

2006/06/28

○将来へのビジョンを問う

部下が上司を評価する基準のひとつに、上司はどれだけ将来へのビジョンをもっているか、またそれをどれだけ情熱をもって、部下に伝えられるか、がある。言うまでもなく、上司は会社全体の舵取りをしているのであり、近い将来、どの方向に向かうかについて関心のない部下はいない。自分の将来が関係しているのだから。しかし、上司だけが、ビジョンを部下に伝え、部下のモチベーションを上げることに留意している必要はない。部下は、自分の方からビジョンを明らかにしていくために、上司に質問をしていくことができる。また、その質問は唐突なものでなく、上司にとっても役立つ質問である必要がある。

ビジョンを明確にする質問には、大きく分けて2つある。ひとつは、上司個人のビジョンに向けられた質問。そして、もうひとつは、組織の未来に向けた質問。たとえば、個人に向けては、「この会社を、どうやって選ばれたのですか?」。次に「どんな未来に興奮しますか?」。組織の未来については、「業界全体の将来はどうでしょうか?」「この1、2年で、会社はどのように変わっていくと思われますか?」。

これらの質問には目的が2つある。ひとつは、ビジョンを共有すること。もうひとつは、上司にも考えてもらうということ。もちろん、曖昧な返答や、否定的な返答をする上司もいる。上司の中には、部下とのコミュニケーションに価値を見出さない人もいる。また、その場で即答できないために、曖昧な返事をする場合もある。しかし、それを真摯に受け止め、それに答えてくる上司もいる。そういう上司とコンタクトを取り、上司個人のビジョン、会社全体のビジョンを引き出し、共有するべきだ。

また、上司の多くは、管理職という役割にこだわる。興味深いのは、管理職の多くがリーダーシップをもたない、または、発揮しない点にある。役職とリーダーシップは違うものであることに気がついていないのだ。部下の立場に立つと、上司のリーダーシップは上司の責任に思えるが、実は上司のリーダーシップを育てる一番要因は、部下がもっている。部下が上司にリーダーシップを求めることが、上司の進歩に最も効果的なのである。上司に対する効果的な質問は、上司のリーダーシップを引き出す。特にその場で答えられないような質問を受けたとき、上司は自分のリーダーシップについて考えるようになる。

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「質問を「テスト」にするな」

2006/07/05

○相互理解を深める道具に

上司のする質問の多くは、部下に「イエス」と言わせるためのものだ。たとえば、「元気か?」「はい」「仕事は順調か?」「はい」。または、自分の求めている答えに誘導するもの、そして、自分の不安を解消するための質問である。「このところ、あまり私の言っていることが受け取られなくなっているように思うんだけど、どうだろう?」「いえ、そんなことありませんよ」。さらには、質問を使って相手を貶めることすらある。「どうも私の求めている答えは、君からは得られないようだね」。上司は、最初から正解をもって質問しているわけで、正確には部下を試しているだけである。また、質問をしながら結局は、自分の意見をそこで展開する。「僕はこう思うんだよ」

これらを通して部下は学習する。「適当に答えておこう」「当たり障りのないことを答えておこう」結局、上司は部下に、いいようにあしらわれるようになる。質問の質が低ければ、当然それなりの代償を支払うことになる。

言うまでもなくコミュニケーションには、いくつかの約束事がある。質問をして、相手がどんな答えを返してきたとしても、まずは、「質問に答えてくれてありがとう」、「このコミュニケーションに参加してくれてありがとう」と伝える。もし、部下が自分に質問をしてきたなら、「質問をしてくれてありがとう」なのである。もちろん、毎回言葉にする必要はないが、その気もちを伝えるような表情は必要である。

また、質問はテストではない。評価でもない。質問を通して、テーマをはっきりさせ、それを深める。お互いへの理解を深めるためのものである。質問に対して正解を求めてばかりいると、部下育成に失敗する。部下は質問に対して伸び伸びと、自由でいられることが求められる。正解だけを求められるようになると、部下は萎縮してしまう。もし、CSを上げるためにサービスの質を上げようとおもうのであれば、サービスとは何かについてレクチャーするのは、ブービー。どんなサービスが求められているかを質問するのは、ブービーメーカー。「どんなサービスがしてみたい? 自由に、何でもできるとしたら、どんなサービスをしてみたい?」。その結果、出てくる答えが、まるで使えないものだとしても、「どんなサービスをしてみたいか?」、それについて心に留めるようになるだけで、サービスの質は変わってくる。

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「次の質問へ 「後」が重要」

2006/07/12

○連続性生むポイント5つ

質問する際に大切なのは、まず最初に効果的な質問をすること。次に相手の言うことを注意深く聞き、次の効果的な質問を創り出す。質問には連続性が求められる。ひとつの事柄に対して連続した質問をすることによって、創造性、自発性、気づきがそこに生じる。したがって、用意された質問を繰り返すだけではそこに何も起こらないし、また、発展がない。コーチングは、クライアントの行動やあり方にシフトを求める。そのために、コーチは質問をし、クライアントの答える時の言葉をよく聞き、よく観察する。質問をして次にすることは、次の通りだ。

1.待つこと。そして、もっと待つ。

聞くことは、次に自分が話すための順番を待っているのではない。次に自分が何を言うかを考える時間でもない。相手が十分に考えて、そして話せるようにする。

2.正直でいる

話している内容が理解できないときには、わかったふりをしていないで、そのことを伝える。

3.相手の求めていることを聞く

相手が何を求めているのか、今自分に何を要求しているかを聞き取る。コミュニケーションのベースには、常に要求がある。

4.ネガティブな反応をしない

「それは、前に聞いた」「その数字は間違っている」「論旨が定まらない」等々。たとえそうであっても、訂正を入れたり、批判することは、部下が自分の創造性とアクセスするチャンスを奪ってしまう。以前聞いたことがあるような話であっても、よく聞くと、また新しく何か教えられることがあるものだ。

5.自分がそこにいることを伝える

私たちは、話している最中、聞き手の不在を感じることがある。目の前に相手がいても、自分に対する興味を失っていることに気づくことがある。「はい」、「そうですね」、「なるほど」、「ほう」。相づちをうつことは「私は聞いています」そして「話を続けてください」という意味なのだ。

効果的な質問をすること。次によく聞くこと。そして、次の質問をタイミングよくする。この連続性があって初めて、部下が自分自身の創造性にアクセスできるようになる。

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「視点変える質問で問題把握」

2006/07/19

○可能性を引き出す

今、どんなに困難な状況にあったとしても、百年経ってしまえば笑って振り返ることができるものだ。障害にぶつかって、身動きが取れなくなったときには1-2週間、旅行に出る。帰ってくると、異なる視点から障害を見ることができる。プロの棋士は局面が悪くなったときに、一度席をはずすという。戻るときは別人になり、「この局面をこの私がなんとかしてあげましょう」と、そんな風に気もちを切り替えることがあると聞いた。何も解決はしていないのだが、視点を変えることで、新しい可能性や選択肢を見出せることもある。

今ここにいながらにして「視点を変える」ために、コーチは質問を使う。もし、今部下が困難な状況にいるとしたら、「こういう問題を解決するのが上手な人を知っているか?」という質問が使える。これは、問題解決のモデルを探すときの質問だ。今抱えている問題を解決できる人の考え方や行動の選択をモデルにして、それを試してみるための質問のひとつである。

視点を変える質問の例をいくつか挙げてみよう。

「以前困難な状況にあったときには、どうやってそれを乗り越えたか?」。これは、自分の経験の中にあるリソースを探すための質問である。過去の経験を未来に向けて生かすためにつかう。

「この問題を解決するのに、誰に助けを求めるのがいいと思う?」問題を自分ひとりの力でなんとかしなければならないと気負ってしまうことは多い。そんなときに効果的な質問だ。

いずれの質問も問題の解決にはならない。しかし、問題は本人の考え方や行動のパターンにある場合が少なくない。視点を変える質問は、問題を頭の中でこね回す前に、問題が何であるかを観察するのに役立つのである。

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「回りくどい会話の対処法」

2006/07/26

○要求の中身はっきり確認

上司、部下にかかわらず、相手が趣旨の不明瞭な、遠まわしな話をしてくることがある。要するに、何を言いたいのかがよくわからない。その背景にはたいてい、「して欲しいこと」、「して欲しくないこと」などの要求が隠されている。日本の文化では、人に要求することをよしとしていないところがあるが、それもひとつの理由で、直接、要求を言わずに、迂遠な言い方で悟らせようとする。

不平不満も、その背景には、要求がある。趣旨のはっきりしない会話や、不平不満、批判的なものの言い方、それに対しては、「自分にして欲しいことは何か? 自分にして欲しくないことは何か?」、それを聞かせてほしいと、直接伝えることである。もちろん、それ以前に相手の心を読むことができれば、それに越したことはない。しかし、たとえ相手の心が読めたとしても、言葉での確認は必要になる。要求をはっきり言葉するのをためらうと、つまりは、ずっとエモーショナル・ワーク(emotional work)、つまり気遣いを強いられることになる。気遣いは必要だ。しかし、それが最小限であることが、組織やチーム運営の条件である。

さて、要求を受ければ、当然それに応えなければならない。当然のことではあるが、全ての要求に「イエス」と言えるわけではない。「ノー」と言わなければならないときもある。ときに「ノー」を言う前に言い訳を重ねる人もいるが、言い訳は求められたときだけでいい。それよりも、素直にはっきりと、建設的に「ノー」と言うことの方が大切である。

確そこで、相手に不快に思われる可能性はある。それでも、遠回りな言い方をしたり、当たり障りのない言葉でごまかすよりはいい。最初は慣れないが、ためらうことなく、オブラートにくるむことなく、ハッキリと目を見て「ノー」と言う。もちろん決して、攻撃的であってはならない。相手に対する尊敬、自分の尊厳、その両方を大切にしながら、「ノー」と言う。最初は慣れないために戸惑うが、やがて、風通しのいいコミュニケーションが築かれるようになるであろう。

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「ワンパターンな行動 是正は」

2006/08/02

○効果的な質問で変化を

うまくいっている、いっていないにかかわらず、人間は一つの考え方、一つのやり方に支配されている。それは、人との関係のつくり方、問題にぶつかったときの対応の方法に現れる。そしてそのほとんどは、実はワンパターンなものである。自分がワンパターンな行動をとっているのを自覚している人は少ない。しかし、自分以外の人たちがワンパターンな行動、発言を繰り返していることには気がついている。「おやおや、まただ」、「いつものお決まりだ」。

私たちが同じ考え方、行動にこだわるのには理由がある。それは、少なくともここまでは、その方法でうまくいってきたからだ。ここから先、新しい考え方や行動をとって失敗したくない、という思いが強くあるからであろう。特に上の立場にたてば、なおさらリスクは負いたくない。しかし、状況は常に変化している。リーダーは常に未来を予測し、先手を打たなければならない。おそらく、そのことについても十分理解はいしているはずである。しかし、問題なのは、理解しているからといって、それに行動が伴うわけではないということである。頭でわかっていることと、実際の行動の間には深い溝がある。その溝を越えるのは容易なことではない。

ときに、行動やあり方を変えていくために、外側からモチベーションをかけることも試みられるが、百戦錬磨のエグゼクティブにとって、それはあまり効果があるとは思えない。彼らに行動を起こし、変化を起こしてもらうためには、やはりコミュニケーションが必要だ。その際、最も効果的なコミュニケーションとは、20%の意見と80%の質問である。大抵の人はその逆で、80%の意見と20%の質問をしている。また、答えられないような質問をしたり、間違った答えを誘導するような質問をしたりすることは、避けなければならない。質問は、常に未来に向けられ、可能性を開くものでなければ機能しない。

たとえば、「どうやって考える時間をつくっていますか?」と聞かれるより「どんな時に集中して考えることができますか?」と聞かれる方が答えやすい。「今、どんなビジョンを持っていますか?」よりは、「1年後に、この部はどんな変化を遂げると思いますか」の方が答えてみたい気にさせる。効果的な質問とは、それに答える過程で、パラダイムシフトを生じさせるのである。

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「怒っている相手への接し方」

2006/08/16

○大きな声で、「でも」に注意

コミュニケーション・スキルの中でも特に難しいのは、怒っている相手への接し方である。特に、自分に対して憤っている人に対して、どう接するか。すぐに思いつくのは、相手をなだめるという方法。「まあ、まあ」とか「冷静に話そう」、「気持ちはわかるよ」。多くの場合、これらの言動は怒りを増幅させる。なだめようとする態度そのものも逆効果だ。彼らは本音で話すことを望んでいるからである。また、相手が怒っているとき、冷静な態度を取ることも同じである。もし、相手が怒っていたら、自分も同じぐらい大きな声で話す必要がある。相手と同じ声の大きさ、身振り手振りは、この人も、本気だと思わせるものである。そうしながら、相手の言っていることを理解するのである。それは、同意することとは違う。最初に、理解するのである。何を望んでいるのか、して欲しいこと、して欲しくないことは何なのか? それを理解することである。同意はそれからである。

当然、簡単に謝罪することも問題解決にはつながらない。それよりは、相手の言い分を全部聞くことの方が大事である。相手が反発してくる原因にはいくつか考えられるが、そのひとつには、相手の話を聞くときの聞き方、相手の存在に対する敬意の不足からくる。どんなときにでも、相手を見下したり、相手の話していることを軽々しく扱えったりすれば、反発は避けられない。相手の話を自分の尺度で測るのではなく、相手が聞いて欲しいと思っていることに注意を向ける。相手が聞かれたいと思っているように、聞くことである。自分が思っていることが、そのまま受け取られるまで、人は話し続けるし、感情はエスカレートする。

さらに、会話しているときに注意しなければならないのは、「でも」の使い方である。「でも」という言葉は、それ以前の言葉を帳消しにする。「言っていることはわかる、『でも』君の言い方がね、、、」。後は何を言っても否定になる。よい使い方の例としては、「君の態度に腹を立ててしまった。でも、あんな言い方をして悪かったと思っている。」といった使い方だ。

反発は偶発ではない、コントロールできるものである。

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「深刻になることのデメリット」

2006/08/23

○問題解決に別の選択肢

問題や障害にぶつかると、どうしても人は深刻になる。

最近は、高校野球でも選手の笑顔を目にすることがある。しかし、以前は「歯を見せるな」「へらへらするな」など、ゲームに笑顔などもってのほかという雰囲気があった。「ユーモアは大切だよね」といいながらも、会社の会議で冗談を言うことを許されているのは、限られた人である。どちらかといえば、眉間にしわを寄せて、現実を深刻に受け止めているポーズの方が、一般に受けはいいように思う。しかし、深刻であることは、その場に次のような影響を与える。

・その場からのエネルギーを奪う
・周りの人たちを脅かす
・重苦しく、動きを鈍らせる
・学ぶ機会を奪う
・ミスや失敗からの立ち直りに時間がかかってしまう
・自分の長所を発揮する機会を失う

深刻さによるデメリットに気がついていないと、失うものの大きさは忘れられる。もちろん、深刻であることによるメリットもある。それは、自分から深刻を装ってしまえば、それ以上誰かに責められることはないということだ。また、事の重大さを、誰よりも認識しているというアピールにもつながる。状況がいかに深刻であるかとは別に、自分が深刻な態度をとるかどうか、それはまた別の問題である。いずれにしても、深刻になれば、全てはそこで止まってしまう。

しかし、いま目の前の問題や障害を解決しようと思うなら、ほかの選択肢もある。

・すぐ次のターゲットに狙いを定める
・気分転換をする
・責任追及や原因探しをやめて、可能性に目を向ける
・有能で頼りになるのは誰かを探す
・問題解決のためのコミュニケーションを交わす
・うまくいっていないことだけではなく、うまくいっていることに目を向ける
・新しいことを取り入れる
・自分のミスを認める

など、もし深刻さに逃げ込まなければ、やれることはいくらでもある。深刻さに逃げ込むか、他の可能性を見つけるか。そこには、わずかな差しかない。しかし、多くの場合、わたしたちは深刻さを選んでしまう。

コーチは、深刻さから可能性に目を向けさせるという目的をもって、コミュニケーションを交わす。

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「自らのイメージを部下と共有する」

2006/08/30

○「解釈」の違い理解し埋める

コミュニケーションを決定しているのは、コミュニケーションの発信者ではなく、コミュニケーションの受け手の側である。こちらが何を言ったかではなく、相手がどう受け止めたかがコミュニケーションを決定している。「ちゃんと聞いていないからだ」、「あれほど言ったのに、どうしてそんなへまをするんだ」、「何回言えばわかるんだ」。これらは全てコミュニケーションとは発信者が決定しているという前提に立っている。自分の言ったことをそのまま相手は理解すべきだと思い込んでいるのである。

しかし、人は、物事を自分の見たいように見て、聞きたいように聞く。同じ言葉を聴いても「解釈」は、人それぞれ違う。「りんご」という単語で、赤いりんごを想像する人もいれば、緑のりんご、あるいは、食べかけのりんごを想像する人もいる。もちろん、りんごと桃の違いは共有されるが、発信者の意図する「りんご」を、受け手に同じようにイメージさせるのは簡単なことではない。まず、相手に「りんご」と言ったらどんなりんごをイメージするかを聞く必要がある。次に自分のイメージするりんごを伝える。それだけでは終わらない。自分の伝えたりんごのイメージを、相手にリフレイン(繰り返し)してもらう。そういったやりとりのなかで、微細な違いを埋めていく。最終的に同じ絵を共有して、コミュニケーションは完了する。

このように、私たちは同じ言葉を使いながら、実は別々のイメージをもってコミュニケーションしている。このことを「一般的不協和音」と言う。このことを事前に理解してコミュニケーションを交わすのと、理解せずにコミュニケーションを交わすのでは、大きな違いが生じる。わたしたちは、同じ言葉を使いながら、実は違うことをイメージしている。そのことを前提に考えれば、意見の食い違いを恐れる必要はない。違って当然だからである。だからこそ、「仕事」について、「儲け」について、「チームワーク」について、お互いがどのようなイメージをもっているのか、それについてコミュニケーションを交わすことで、そこに協力関係を築きやすくなる。それぞれが使っている言葉と、その意味を共有すること、それが不協和音を消していくポイントだからである。

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「部下の発言を引き出せ」

2006/09/06

○各人の知識・経験いかす

会議の席上、それが取締役会であっても、全員が万遍なく発言するわけではない。決められたシナリオにそって発言することはある。しかし、その場で思ったことや、考えたこと、誰かの発言に対する質問や、意見を、誰でもが言うわけではない。

講演の中で、相手の話を聞くことの大切さについて話していると、ある経営者から「確かに聞き上手の話はわかりますが、それよりも自分の意見を言える人材の育成が大事なんじゃないでしょうか」という質問があった。「会議の席で、話す人は限られますか?」と聞いたところ、そうだという答えが返ってきたので続けて質問をした。

「何か意見を言う妨げになるものは考えられますか?」

「上司が部下の話をきちんと聞かないという問題もあると思うけど、それだけではない」

「他には?」

「自分の意見をどう扱われるか、どう評価されるか、それを怖がっているのかもしれない」

いずれにしても、部下が黙ってしまえば、上司は無力になる。「思ったことをはっきり言えよ」。「言わなきゃわからない」。確かに部下も、頭ではわかるのだが、からだがついていかない。あるとき、「なぜ自分の意見を言わないのか」ということをテーマに、リサーチをしたことがある。そこで出た答えは次のようなものだった。

・自分の意見に自信がない
・業績を上げていないのに、意見だけ言えばそれをなじられる
・うまく言葉にできない
・変なことを言って浮きたくない
・他の人が同じ意見を言ってしまった
・最初から求められる答えが決まっているから
・上司の意に染まないことを言ったら、責められるから
・提案すれば、お前がそれをやれといわれる
・言っても無駄
・言えば責任を取らされる
・話すことに慣れていない

人にとって、死ぬ次にこわいのは、人前で話すことだと言われている。しかし、話すことに、慣れている者だけが発言していたのでは、組織は活性化しない。一人ひとりの内側にある知識や経験を引き出して、それを活用すべきである。そうであれば、いかにしたら、部下は話せるようになるか、またどのような環境を用意すべきかについて、上司は考えなければならない。

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「怒っている人への効果的な対応」

2006/09/13

○周囲への影響に気づかず

怒っている人やネガティブな態度の人に悩まされた経験は誰にでもある。彼らに対する対応方法を知らずにいると、常に彼らにペースを乱されることになる。対応としていくつか方法は考えられるが、基本的な態度は、反応しないことである。これは怒っている相手にとって予想外の態度で、相手をなだめようとするよりは、ずっと効果的である。

自分が怒っているときは、誰しも「自分が怒るのは当然である」と思っている。しかし、そうではないのだということを相手に知らせる必要がある。多くの場合、怒りの原因は外側にあるわけではない。相手と自分のあいだに線を引くことで、怒ることだけが問題解決の方法ではないことにも、気づいてもらわなければならない。また、ネガティブな感情が、まわりに与える影響についても、知ってもらわなければならないのである。それには、「申し訳ないが、もう私にできることはないと思う。それから、その物言いは受け入れられない」といったように、自分の態度をはっきりと示す。ときに怒りは、「自分は認めてもらっていない」と思っていることが原因になる。その場合には、相手を「受け入れ」、「認める」。それは、「同意」することとは違う。相手の怒りに同意するのではなく、「どうしてそうなったかを理解した」ということを伝えるのである。

同じように、相手の言っていることを繰り返す、という方法も効果的である。「君が言っていることは、○○○と聞こえるけど、それでいいのだろうか?」。そのときには相手が使った言葉をそのまま使う。そのままの言葉を使うことで、怒っている相手は、自分の話が聞かれていることを確認する。「確かに聞いた」というメッセージは、「相手を認めた」というメッセージとして相手に伝わるものである。

また、怒りは、見当違いな方向に向けられる場合も多々ある。欲求不満や不安が形を変えて怒りになる場合も少なくない。しかし、本当のことを言葉にできずに、怒りに変わってしまう場合もあるのだ。相手が怒っているときには、相手が本当に言いたいことは何か、して欲しいこと、して欲しくないことは何か、それに注意を向ける。コミュニケーションとは、相手の求めているものが何であるかを知るためのプロセスでもあるのだ。

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「関係構築へ「要求」が壁に」

2006/09/20

○明確に伝えて仕事円滑に

コミュニケーションの目的は「要求する」ことと相手の「要求を知る」ことだ。ただ、要求は人間関係を築く上で大きなハードルになり得る。要求は常に通るわけでもなく、要求の激しい人間にはられるレッテルもある。

社員が会社を辞める理由の一番目は、上司が話を聞かないこと。二番目は、上司の言っていることがわからないためだ。つまり、彼らは上司が何を求めているのかがよくわからないのだ。マネジメントをする上で部下に対し明確な要求をすることは欠かせないが、現実には要求をスムーズに相手に伝えることのできるマネジャーはそう多くない。ここで直接自分の要求を相手に伝えるためのヒントを紹介する。

1 相手に依頼しなければ何も始まらない。

2 要求に対する答えは、相手が決める。それは「ノー」かもしれないし、「イエス」かもしれない。

3 「ノー」を受け入れる。「ノー」を言われてもそこで止まらず、次の人にまた要求する。

4 要求は1回にひとつ。同時にいくつも要求しない。また、頼みやすい人を便利屋にしない。

5 明確に要求する。相手が動きやすく、判断しやすいよう、すべての情報を伝える。

6 信頼する。明確に要求をして任せ、そのことで相手を追い回さない。

7 お礼を伝える。結果が思わしくなかったとしても、要求に応えてくれたことへの感謝の気持ちを伝える。これはいい関係を築く機会でもある。

明確に要求すれば、相手はこちらの腹を読まなくてすむ。それによって仕事は円滑に動くようになる。「要求する」ことについて見直すことで、部下だけではなく、上司との関係も変えていくことができるのである。

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「難しい上司、訓練のチャンス」

2006/09/27

○今自分が何ができるか

職場で生じるストレスの多くは、上司との関係にあると言われている。部下は上司を選べない。それについては、運を天に任せるようなところもある。上司と相性が悪かったり、上司から抑圧を感じたりしたら、次の人事異動を待つか、転職を考えるしかない。しかし、次の職場で理想的な上司に出会えるかどうか、それもまた運になってしまう。したがって、難しい上司をもった場合は、いま何ができるかについて知恵を巡らせなければならない。それには、いくつかヒントになる考え方がある。

1 戦わない

上司の間違いを指摘したり、上司を言い負かすことができたりしても、最終的には勝てない。自分の正しさを証明しても、上司には勝つことはできないのである。最高にいい結果で、引き分けである。だから、最初から戦わないことである。

2 自分が上司の何に反応しているかを分析する

すべての部下がその上司の態度に影響されているのか、または、自分だけが反応しているのか。もし、自分だけが反応しているのなら、自分について知る事のほうが優先する。自分の価値観について、自分が何に反応しやすいか、強み、弱み、タイプなど、自分について知るための時間をもつ。

3 相手を知る

上司のタイプや、価値観などを知る。自分を知るのと同じように、上司を観察し、理解する。

4 客観的な意見を聞く

自分と上司の関係について、第三者にはどう見えるか、どう考えるか、複数の人たちの意見を聞く。そして、複数の視点をもって、上司との関係を見直す。ただし、社内では話さないこと。問題が複雑になる可能性がある。

5 上司が変わることを期待しない

誰かが上司を裁くことも期待しない。問題解決のためには、あくまでも自分次第であるという立場にたつ。上司の影響を受ける、受けないは自分次第である問題の原因を外に置かない。

人間は思ったよりもずっと感情的で、ちょっとした一言や態度に反応してしまうものだ。一旦感情的になってしまえば、理性など吹き飛んでしまう。誰かの感情を外側からコントロールするのは難しいが、自分の感情をコントロールすることは可能である。難しい上司との関係も、いかに自分の感情をコントロールできるようになるか、その課題であると考えれば、捨てがたいチャンスでもある。いずれにしてもどこかで、それは身につけなければならない能力なのだから。

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