MAGAZINES & PAPERS

日経産業新聞『部長講座』

「自立型の部下を輩出させよう」

2005/09/21

○上司をやる気にさせる

部下のモチベーションを上げるのは、上司の仕事。誉めたり、叱ったり、諭したり。そうして部下を仕事に向かわせる。中には、何も言わない上司もいる。部下は、上司の背中を見てついて来るもの。または、土俵に上がれるようになるまでは、特にコミュニケーションの必要はない。そう考える上司もいる。

一般に、上司は部下のやる気を引き出すものと思われているが、上司をやる気にさせる部下に出会うこともある。上司といえども生身の人間だから、気持ちが萎えることも当然ある。また、個人的な問題を抱えることもある。判断に躊躇することもあるが、それでも部下のモチベーションアップを心がけなければならない。そんなときに「仕事が面白いです」と言ってくれる部下、「やりましょう」、「やってみます」と前向きに関わってくる部下は、上司を元気にしてくれる。また、言葉だけではなく、仕事をふると「はい、すぐにやります」と身を乗り出してくるような態度。また、上司が要求した以上のことを返してくる。うまくいっている、いっていないに関わらず、コンスタントに報告を上げる。外から帰って来ると、「おかえりなさい」と大きな声で迎えてくれる。何が何でも目標を達成しようとする姿勢。提案を自分から出してくる。問題が大きくなる前に、相談をしてくる。彼らは、上司をやる気にさせている。

○気持ちよく一緒に仕事

上司をやる気にさせる。そういう思考のできる部下は、決して多くない。たいていは「自分の運命は、会社や上司次第だ」と思っているものだ。どちからと言えば、受身に考えているのである。しかし、中には上司をやる気にさせようと考えている部下もいる。組織に属する人たちの多くは、指示に従うというスタンスを取る。一方、指示には従わないという人たちもいる。そして、そのどちらでもない自立型のタイプもいる。彼らの多くは、上司のどんな指示にも従うわけではない。自分の考えをもっている。そして、ときに、上司とぶつかることもある。しかし、自立型の部下は、仕事上生じる意見の相違と、人を敬うことを、分けて考えることができる。彼らは、相手が上司であっても、気もちよく一緒に仕事をするために、何ができるかを考えているのだ。

go Pagetop

「上司のやる気を奪う部下」

2005/09/28

コーチングセッションで、あるマネージャーに「もう少し部下を誉めてください」とリクエストすると、彼は「いやだ」と答えた。

「どうしてですか? 叱咤するだけではなく、誉めることも大事なのはご存知でしょう」

「うん。でも、いやだ」

「どうして?」

「だってね、部下も僕を誉めないから」

○上司も部下にほめられたい

上司が誉められたいと思っているということを知っている部下が、どれだけいるかは知らないが、立場が上に行けば行くほど、誉められたい、認められたいという欲求は、むしろ強くなるように思う。

前回は、上司をやる気にさせる自立型の部下がいることについて紹介した。一方で、当然、上司のやる気を奪っている部下もいる。

会話の中で、「でも」や「しかし」が多い。「どうせ」とか「それは無駄じゃないですか」、「またやるんですか」と後ろ向き。「私は何をやればいいんですか?」、「え? それは私がやらないとだめですか?」。

言葉はもちろんのこと、目つきや顔つき、態度だけでも、上司のやる気を奪うことができる。礼節がない。上司が話しているときの興味を失った態度。約束を守らない。都合が悪くなると体調を崩す。会社の成長を一番に考えていない。他責的。肝心なときにいない。返事がない。あいまいなものの言い方。メール等を無視する。または、返事が遅く、タイミングを逸している。いつ辞めるかわからない態度を取る。挨拶がない。会社はこうあるべきだという、一般論を持ち出す。 上司はこうした部下の言葉や態度で、気落ちする。また、自分に対する態度と他の人に対する態度が違う。健康管理ができていない。すぐに行動しない。

○役割意識した態度重要

上司と部下は、人と人の関係において当然平等だ。しかし、組織における役割上、上司・部下の関係は存在する。つまり、上司と部下の関係における言葉遣い、態度、というものがあるのだ。これまでは、家庭、学校で上下関係のあり方について教育されてきた。しかし今日、上下関係については、会社に入って初めて教育される。当然、教育されているものだと思っている上司。どんな態度をとっていいのかわからない部下。その溝は、思いのほか深い。

go Pagetop

「部下のデータベースを作る」

2005/10/05

○「まだ知らない点」チェック

社員が会社を辞める一番の理由は、上司が話を聞かないから。二番目の理由は、上司の言っていることがよくわからないから。つまり、上司の話すビジョンや、仕事の指示があいまいだということだ。もちろん、部下の問題もあるだろう。しかし、上司が会社のビジョンや目標、ときには、ミッションステーメント、コアヴァリューについて話したとしても、部下はそれを自分のこととして聞くことは難しい。なぜなら、部下の関心事は、会社のビジョンやコアヴァリュー以前に、「それで、自分はどうなるのか?」にあるわけだから。

「自分はどうなるのか?」。それが明らかにならない限り、部下には会社のビジョンを思い浮かべるだけの余裕はない。上司は、会社のビジョンを話す前に、部下自身、さらに言えば、部下の価値観や部下のタイプについて十分理解している必要がある。つまり、部下のデータベースをもっている必要があるのだ。「部下については、すでにわかっている」という立場から、「まだ知らない点がある」という立場に移動して考える。

・部下がこの会社を選んだ動機とは?
・今後5年間で、自分はどうなりたいと思っているだろうか?
・やる気を失う仕事とは?
・何に一番責任を感じているか?
・上司に何を希望しているか?
・誕生日は?

部下のもっているビジョンやスキル、タスク、そしてさらに個人的な領域というように、大きく4つの領域に分類して、部下について自分がどれだけ知っているかをチェックすることで、部下についての認識を深めることができるようになる。また、そうすることで、会社のビジョンと同時に、部下の未来についても話し合うことができるようになるだろう。そして、何よりも、部下についてのデータベースをつくり始めると、部下に対する興味が増してくるのを感じるのだ。

go Pagetop

「自分を知れば、人に興味も」

2005/10/12

「自分について知る」。こういうセリフには、あまり興味をひかれない。「汝、自分について知れ」。それは、とりもなおさず、「お前は自分のことを知らない」、または「反省しろ」という意味に聞こえるからだろう。しかし、哲学的、心理学的な意味は脇においても、自分について知っておく必要があるのは確かである。

・仕事上で、どんな成功体験をもっているか?
・どんな状況で自分の強みは発揮されているか?
・自分をどんな人として記憶して欲しいと思っているか?
・判断するときの基準は何か?
・どんな人に魅力を感じるか?
・自分のことをどんな人間だと思っているか?

自分に対していくつかの質問を投げかけることは、最初はあまり居心地がよくないかもしれない。それはたぶん、自分について、あまりはっきりしていない、または、はっきりさせたくないと思っているからだろう。それでも、何度かそうした質問に答えているうちに、だんだん自分の輪郭がはっきりしてくる。そして、自分をはっきりさせることで、コミュニケーションに違いを創り出せるようになる。

コミュニケーションで大切なのは、相手と自分の違いをはっきりと認識することだ。自分について知らないでいると、相手との違いもわからず、それ故、相手を理解することもできない。「違い」を知るためには、自分の輪郭を知っている必要があるのである。また、自分について知るプロセスに入ると、他人に対する興味も増してくる。人に対する興味こそが、コミュニケーションの原動力になるのである。

私たちは、自分のことばかり考えているわりに、自分についてはあまり知らないものなのだ。

go Pagetop

「あなたの会社は、いま何歳?」

2005/10/19

○いくつになっても若さを

自分について知るためには、いま自分のいる場所や環境について知る必要がある。たとえば、自分の会社の年齢は何歳なのか? 自分の会社での言動や行動は何歳なのか? 自分はいま、会社にどんな影響を与えているのか? それは会社を若返らせているか? それとも、老け込ませているか?

「あなたの所属する会社の年齢は?」というアンケートに、106名の部課長の方からの回答があった。

自分の会社が「老年」、「壮年」と答えた人たちの理由には、次のような答えが並んだ。

・フレッシュ感がなくなり、動きが鈍くなってきた
・高いゴールへのチャレンジ精神を失いかけている
・社内判断が遅く動きが鈍いため
・体力的に減退してきている。変革を受け入れる素地やスピード感に欠けると感じる
・全体的に疲労感が満ちている
・モチベーションが継続しない
・頭の柔軟性が徐々に低下し、理屈っぽくなっている
・頭で命令しても、体がついてこない
・恋や夢にがむしゃらだった頃を思い出し、懐かしむことが多い

もちろん、壮年、老年を、成熟した会社としてとらえる傾向もある。しかし一般に、会社は若さを求めている。会社の若さが、会社のエネルギー源であり、若さがブランドだからである。今回のアンケートで、会社が若いと答えた人は、会社の「若さ」を次のように表現している。

・ 少年の心のように素直で、どんどん変化していける
・ 意見の対立を恐れない雰囲気がある
・ なりきれる。何でも楽しむことができる。考えるよりまず行動!
・ 新たな分野に参入しようと、今むちゃくちゃ走り回っている

もちろん、若さのリスクもある。しかし、会社の創業年数とは関係なく、若返りに成功している会社がある。反対に、老け込む会社もある。あなたの会社は、少年だろうか。それとも青年、壮年、老年だろうか。

go Pagetop

「組織の加齢は止められる」

2005/10/26

○自ら変化で良いムード創り

リーダーにはチームのムードを創る役割もある。部下はリーダーの一挙手一投足に注意を向けている。

チームや組織全体のムードはリーダーの発する言葉や態度に影響されている。私たちがコーチを依頼されるときには、会社の業績が良い悪いにかかわらず、会社を「良いムード」にしたい、「良い雰囲気」にしたいというリクエストが少なくない。そこで「良いムードとはどのようなものか」と問うと、「会社が一丸となっている。活気がある。行動的。高い志がある。体力がある。チャレンジ精神がある。頭が柔らかい。変化を受け入れる」などといった答えが返ってくる。要するに、会社が「若い」ということなのだ。会社の「若さ」とは、単に創業からの年数ではない。創業100年で青年期という会社もある一方で、総合10年で老年期をむかえる会社もある。

最近、医療の世界でアンチエイジング・メディスン(抗加齢医学)が注目されている。身体的年齢を検査し、実際の年齢と比較すると、身体が実年齢よりも若かったり、年をとっていたりすることがわかる。加齢は仕方のないことと考えられてきたが、いまや加齢は止めること、または若返らせることができるようになりつつある。

あるマネジャーは「中年クライシス」のまっただ中。「過去の成功体験が急激な環境変化によって見直しを迫られているが、思いと行動が一致せず悶々(もんもん)としている」と話す。変化を迫られていることは理解しても、人は自分が変化するのを避けたがる。最初に変化を求められるのがリーダーであり、マネジャー層なのだ。

go Pagetop

「理想的な会社の年齢「青年」多く」

2005/11/02

○求めるのは必達目標より情熱

会社の創業年数と、会社のリアルエイジ(実際の今の年齢)は異なる。創業100年で青年期の会社もあれば、創業10年で壮年期というケースもある。職種によっても、ふさわしい年齢があるかもしれない。しかし、多くのマネジャーは、自分の会社の理想の年齢を青年期と考えているようだ。その理由として、次のようなものが挙がっている。

・ 活気があって、成長し続けられる
・ 斬新なアイディアを出し、チャレンジ精神旺盛でいることで、会社を活性化していきたいので、会社のルールや手続きなどにとらわれることなく、常に前向きで活気溢れていたい
・ 無限の可能性がある
・ 若すぎるとそれを諌める事が難しく、また年を重ねるごとに冒険が出来なくなるから。熟成される前が案外いい
・ 年老いても情熱は青年そのもの・・・というメンバーであってほしい

一方、中年期を押す声もある。

・ある程度思慮深く、また冒険もするという、企業活動で最少のリスクで最大の果実を刈り取ることがバランスよくできるのは「中年」であると思う
・ ある程度大きな会社であれば,社会的な立場もあり、青年というわけにはいかない。脂の乗り切った中年が理想。それ以上年を取ると考えが凝り固まってしまう

業種や会社の規模に応じて、青年や中年が理想と考えられるようだ。いずれにしても、会社で働く者は、会社の雰囲気に活気を求めている。それは売り上げや知名度によって決定されているだけでなく、リーダーがどのようなリーダーシップを発揮しているかにもよる。私のコーチは、私にこう言う。「伊藤、スタッフにコミットメントを求めているようでは、会社は重く、暗くなる。リーダーの仕事は、コミットメントを越えて、彼らの「情熱」を引き出すことだ」と。

確かにリーダーは、自分に自信のないとき、部下にコミットメントを求めがちだ。それは、単に自分を安心させるための行為に過ぎない。いいリーダーは、部下の情熱を引き出す。それは、自分を満足させるためではなく、一人ひとりの部下の自発性を引き出すという視点に基づくものである。

go Pagetop

「組織の老化は決断の場に表れる」

2005/11/09

○コミュニケーションの改善を

会社の雰囲気が饐えてしまっていると感じることがある。それは、オフィスの雰囲気にも現れるだろうし、社員の行動にも現れる。しかし、組織の老化は、何よりも、会議や上司と部下のコミュニケーション、そして、決断の場面に表れる。社員はそれを敏感に感じ取る。

・会議で、「以前と同じ方法でやればできるだろう」というムードに全員がなったとき
・反応がない
・できない理由ばかりがあがってくる
・「大変ですね」というセリフが多い
・役員メンバーに、明らかに老人と判断できる方が多くなってきたとき
・何でも「前例がない」で片付けられる
・チャレンジができないとき
・捨てるべきものが見出せないとき
・古株の社員が、変わらなければならないのに変われていないということに気づいていないとき
・「ルール」とか「事実上、困難」とか、否定的な言葉を聞いたとき
・「理想は・・・なんだが、・・・」という文句を聞いたとき
・自発的な提案が出なくなったとき
・物事を偏った見方しかできず、他の意見を聞き入れない。
・困難な局面で「あきらめが蔓延」したり、「出来ない理由探し」が始まるとき
・「感動」や「喜びが湧き上がらない」醒めた集団と感じたとき
・上司が「前例はないか?」と探し始めたとき
・決定を行う為のステップが多すぎると感じるとき
・在籍者の実年齢があがり、体力の限界を意識し始めたとき

コーチングの研修をすると「上司に変わって欲しい」、または「部下を変えて欲しい」という声を耳にすることがある。しかし、上司と呼ばれる立場であるならば、まず自分から変わる必要がある。自分自身を変えるといっても、性格や考え方を変える必要はない。まず、自分のコミュニケーションの取り方を変える。今、自分がどのようなコミュニケーションを交わし、その結果、どのような影響を与えているかについて、フィードバックを受ける。そして、自分の使っている言葉、ノンバーバルに発信している情報(非言語情報)の与えている影響を知り、コミュニケーションを改善するのである。

自分を変えたり、他人を変えたりするのは難しいことだが、コミュニケーションは変えられる。私たちは、その瞬間に交わしているコミュニケーションを題材にして、コミュニケーションを交わすことはほとんどない。コーチングのセッションでは、その瞬間に交わしているコミュニケーションを、少し離れたところから見る「メタ・コミュニケーション」を頻繁に行う。そうすることで、コミュニケーションを実際により効果的なものへと変えていけるようになる。

go Pagetop

「組織の雰囲気 フィットするのは」

2005/11/16

○「理想年齢」業種により差異

経営者がコーチングを導入する理由のひとつには、会社の雰囲気をよくしたいという要望がある。会社の雰囲気の良し悪しに関わらず、業績さえ上がっていれば問題ないという考え方もあるだろう。しかし、会社の雰囲気の悪さは、有能な人材の流出やモチベーションの低下を引き起こす可能性もあり、会社の未来を危ういものにする。会社の雰囲気には、未来を占う要素が数多く含まれている。先日から、会社の雰囲気を「少年、青年、中年、壮年、老人」の年代に分けての分析を試みているが、そうすることで、実態のつかみにくい雰囲気に具体性を持たせることができるようになってきた。自分の会社が、今どの年代なのかを知ること、そして、それぞれの年代のもつ良さや問題点をはっきりさせることで、経営陣は、会社のコミュニケーションや行動の改善を試みることができるようになる。つまり、会社の雰囲気を改善するポイントを見つけられるようになる。

組織のリーダーは、組織のムードメーカーである。リーダーの独走を避けるためにも、そこに働く人たちに最もフィットする雰囲気がどのようなものであるかを事前に知っておくことは役に立つ。

これまでの調査で、多くのマネージャーは、自分の所属する組織が青年期、壮年期であることを理想とする傾向にあることがわかった。しかし、業種によって違いがある。たとえば、IT系企業の中でも、システム管理、インターネット系では、少年期、青年期、中年期が最もふさわしいと考える割合がそれぞれ15%で、中年が40%。ソフトウェアを扱う企業では、圧倒的に青年期を理想と考えており、全体の65%を占める。一方、金融や製造業では、理想的な年齢として、老年期が入ってくる。その業種によって、求められる年齢層に違いがあることが興味深い。会社の雰囲気づくりも、独善的になるのではなく、求められている雰囲気がどのようなものであるかを調査し、それに基づいた雰囲気作りが求められるということだ。

組織のリーダーは、目に見えない雰囲気を、どのように創りだすかについての戦略を求められている。

go Pagetop

「上司の前で部下は話さない」

2005/11/30

○普段の態度が大きく影響

企業の年齢について、部課長クラスへのリサーチをしているが、データを見ると、どんな業種においても、彼らが自分の所属する組織に青年期を求めている傾向が読み取れる。では、会社の若さとは何なのだろうか?

それは、発言の自由、行動の自由、リスクへの挑戦、未来志向、成長のチャンス、学習の機会などに表れる。特に、コミュニケーションの量が豊富で、決まった発言者がいるのではなく、誰にでも発言の機会がある組織は若い。だからと言って、「さあ、自由に話しなさい」と言えばいいというものではない。そう言ったからといって、部下が話すわけではない。基本的に上司の前で部下は話さないし、本音を言わない。組織におけるコミュニケーションの問題は、コミュニケーションが一方通行になってしまいがちなこと。そして、そもそもコミュニケーションがないこと。では、部下はどんなときに黙ってしまうのか?

・自分の意見に自信がないとき
・普段あまり業績がよくないのに、意見だけ言うのはまずいと思う
・自分の思っていることをうまく言葉にできないし、まとめている間に、次に話が移ってしまう
・変なことを言って浮きたくない
・意見を言える立場ではない
・何を言っても、結局上司の意図したところに誘導されるのがわかっているから
・最初から求められている答えが決まっているから
・上司の意に沿わないことを言ったら、責められるから
・自分には重要なことでも上司は軽視しているという状況では、とっても話せない
・上司は私に興味を持っていない
・言っても無駄だから
・明らかに聞いていないのが態度でわかるとき

その理由は、一人ひとり違う。しかし、部下が黙っていることには理由がある。上司の仕事は、部下が話しやすい環境と条件を揃えることにある。部下の発言と行動、仕事へのコミットメントは関連している。部下がどうしたら話してみたくなるかについて考えるのは、上司の仕事である。また、ひとつつけ加えれば、こうしたコミュニケーションの問題は、その場のコミュニケーションだけでは解決することはない。普段の上司の態度が大きく影響する。部下に向ける視線、仕事に対する承認、部下の仕事に対する承認。こうしたこと全てが、彼らのコミュニケートしようとする意志に影響を与えている。

go Pagetop

「ビジョンを語り共有せよ」

2005/12/07

○部下の情熱を引き出す

組織に所属するおよそ50%の人は、組織を若返らせたいと考えている。より行動的で、大胆な変革。そして、改善。加えて、より活発なコミュニケーションを望む声が多く聞かれる。また、若返りに必要な要素として、社内での部門を越えた人事交流、若手の声を経営判断に反映させ、権限を委譲することが求められる。その他、特に多い意見に、社内でビジョンを話し、ビジョンを共有できる環境というものがある。組織の若さ、その原動力のひとつに、ビジョン、未来の共有という点を読み取ることができる。学習の機会があることも、また、組織にとって若さの象徴となっている。

反対に、組織が若返ろうとするときの障害としては、次のようなものが挙がって来る。過去の成功体験に対するこだわり、保守的な考え方、トップマネジメントの明確なビジョンの欠落、部門の壁、メンバー個々人のモチベーション欠如、取締役等がもっている慎重論、非協力的な他部門、セクショナリティ、自分の地位や役割に対するこだわり、長くその職場にいる人たちと慣習、年配で立場が上の人のことなかれ主義、ひとりひとりの目的意識がはっきりしないとき、目標がない状態。

言うまでもなく、会社の若返りとは単に実年齢のことではない。20代にして、保守的で、頭の固い若者は決して少なくない。年齢からくる若さに惑わされることはないのである。組織の若さとは、実年齢によって測るのではなく、ビジョンの有無、行動力、変化への体制、責任感、そして、仕事に対する情熱にみることができる。マネージャーの仕事とは 部下を仕事にコミットさせることではなく、部下の情熱を引き出すことにある。また、現状を常に鳥瞰し、まわりから定期的にフィードバックを受けることも大切である。

そして、相手が部下であれ、上司であれ、話題をできるだけ、未来、ビジョンに向ける。気をつけてないと、それ以外の会話のほとんどは、ただの自慢話で終わってしまう。部下たちは、上司の話のほとんどは、上司の自慢話であることを知っている。

go Pagetop

「同じ輪の中に入り議論を」

2005/12/14

○「関係の二極化」に陥るな

会議で発言するとき、「私」から「あなた」へ向けてのコミュニケーションは避けたい。「私」と「あなた」という関係は、相対する関係を意味するので、組織においては、「個人」と「組織」という関係となり、その発言は第三者的なものになる。

組織における第三者的な発言は、不審をかう。組織は、利己的な発言や行動に敏感に反応する。特に管理職は、組織における個人の言動、行動、態度、それらはすべて、組織全体の利益に向けられていなければならないと考えている。したがって、会議で発言するときは、「私」から「あなた」、もしくは、「あなたたち」に向けるのではなく、「私たちのひとり」から「私たちのひとり」に向けてコミュニケートする。同じ輪の中にいること。それを前提として発言する。

コミュニケーションで注意しなければならないのは、コミュニケーションを交わして、相手にどのような影響を与え、同時に、自分がどのような影響を受けているかを察知するることである。私たちが簡単に陥る罠に、関係の二極化がある。コミュニケーションは、基本的に、同意に向けてキャッチボールが繰り返されるものであるが、言葉上の同意がとれているにも関わらず、感情面で不全感が残ることがある。それは、コミュニケーションの最中、無意識にどちらが上か下か、勝っているか負けているか、正しいか間違っているか、損か得か、知っているか知らないか、といった二極化に陥っていることを意味する。どちらかが、二極化に陥り、その決着をつけようとすることへのこだわりが抜けないままでいると、言葉上での同意はあっても不全感は残る。しかし、本来、組織における議論では、組織にとって、何が最善で、役に立つ考えかを選ばなければならない。そのときには、常に「私たちのひとり」として「私たちにとっての利益」を前提に、議論する必要がある。また、相手が上司、部下に関わらず、相手の意見を尊重する姿勢を示すことが大切だ。

go Pagetop

「気配りにもコストがかかる」

2005/12/21

○自由な関係築き対話を

会社の中で、部下たちは、知らない間にエモーショナルワークを強いられている。エモーショナルワークとは、人に気を遣うこと。もとより、部下は、上司の機嫌を損ねることを恐れている。特に、上司のプライドやエゴを傷つけないように注意している。コミュニケーションを交わすときも、そのことに常に気を配っていなければならない。仕事上の提案や要望の内容よりも、むしろエモーショナルワークに、エネルギーが割かれることがある。コミュニケーションは、基本的に対等な立場で交わされるものである。たとえ上司、部下の関係であっても、コミュニケーションを交わすときには、できるだけ自由な関係が望ましい。そうでなければ、コミュニケーションによってもたらされる成果が薄まってしまう。しかし、これまでは、上司に対してエモーショナルワークをする部下が出世するケースが目立った。ときに仕事の能力よりも、上司に対する配慮が出世に影響した。いうまでもなく、エモーショナルワークには、コストがかかる。アメリカで起こった離婚訴訟で、妻が夫に対して、「お風呂はいかが? ご飯は?」などの気遣いを、試算し、請求し、その裁判に勝訴した。夫は妻のエモーショナルワークを当然のことと思ってきたが、実際には、コストがかかっているのである。

当然、上司が部下に気を遣わせても、コストがかかる。コスト削減の視点に立てば、関係がぎすぎすしない程度に、エモーショナルワークの量を減らす必要がある。部下に気を遣わせることで、自分のアイデンティティーを確保するという時代は終わった。それよりも、リーダーシップ、仕事のスキル、コミュニケーション能力が求められている。

go Pagetop

「苦手な上司でも接し方はある」

2006/01/11

○自分と相手のタイプを知る

サラリーマンにとって、配属になった先の上司との相性は、仕事だけではなく、人生そのものに影響するといっても過言ではない。上司に恵まれれば、成長の機会と、日々の高いモチベーションが約束される。もし、気の合わない上司であれば、長期間の我慢を強いられることになる。しかし、部下は上司を選べない。もちろん上司も部下は選べないが、上司は、部下を自分の意向にそわせることができる。しかし、部下にその機会はほとんど与えられていない。一般的に見て、上司の行動や言動に問題があったとしても、それを直接伝えるのにはリスクがある。最近は、360度フィードバックの評価システムを使って、上司に現状を知らせる方法も出てきているが、まだ、あまり徹底していない。こうなると、部下の運命はまさに「運を天に任
せる」といった感じ。「自分ではどうにもならない」という無力感に陥る。

しかし、自分にとって「苦手」や「相性が悪い」上司であっても、彼らとの間に、どのようなコミュニケーションのパイプを通すかという可能性を探る方法はある。現に、自分にとって苦手と思われる上司であっても、誰とも口をきいていないわけではないし、全ての人に嫌われているわけではない。自分にとって苦手な上司とも、パイプを作る可能性はあるはずである。

そのときまず最初にやることは、自分について知ること。次に、上司について知ることである。難しい話ではなく、自分がどのような価値観や、判断基準をもっているかなど、自分のタイプについて知る。同じように、上司のタイプも知ること。

コーチングでは、人はそれぞれ違うので、あえて単純に4つのタイプに分ける。全てがそれに当てはまるわけではないが、およそ4つに分けることから始める。ものごとを支配することを好む、コントローラータイプ。社交的で、行動的なプロモータータイプ。分析型のアナライザータイプ、そして、人との関わりを大事にするサポータータイプ。自分はどれに当てはまり、上司はどれに当てはまるかを知ることで、コミュニケーションのとり方に戦略を持つことができるようになる。少なくとも、コントローラータイプに長々とした報告は機能しない。

4つのタイプ分けはこちらから診断することができます。
http://test.jp/

go Pagetop

「コントローラーかサポーターか」

2006/01/18

○部下のタイプ見極め接する

前回、苦手な上司と上手に付き合っていくにはまず、自分と上司のタイプを分析することが必要だと指摘した。もちろん上司の側から見ても同じことが当てはまる。自分のタイプ、部下のタイプを分析した上でコミュニケーションをとることで、指揮・命令が円滑になる可能性が高い。具体的に、どのタイプに対してどんなコミュニケーションを心がければよいか、もう少し詳しく説明しよう。

たとえば、「コントローラー」といわれるタイプは行動的で自分が思ったとおりに物事を進めることを好む。過程よりも結果や成果を重視し、リスクを恐れず、目標達成にまい進する。そして、何よりも人から指図されることを嫌う。したがってコントローラー型とかかわるときには、相手が自分で判断できるように情報をたくさん提供する。そして結論から話すようにする。部下がコントローラーの場合も同様で、長々と指示するのは適当ではない。

一方、「サポーター」といわれるタイプは、人を援助することを好み、協力関係を大事にする。コントローラーと異なり、仕事においても目標の達成より協力関係に優先順位をおく。周囲の人の気持ちに敏感で、気配りにたけている。相手を優先するため、自分自身の感情は抑え気味になる傾向がある。サポーター型との話し合いには時間をかけ、ゆっくりと結論を出すようにした方がいい。サポーターの部下に仕事を丸投げするのは適当ではない。

各タイプには、それぞれの価値観や判断基準がある。まずはタイプを見つけ出すこと。そうすれば最適なコミュニケーションがとれる。

go Pagetop

「プロモーターかアナライザーか」

2006/01/25

○2つのタイプは正反対

前回は、コントローラー型、サポーター型との付き合い方を紹介した。今回は残る2つのタイプ、「プロモーター」「アナライザー」に分類される上司・部下と仕事をする場合に役立つ対処法を伝授したい。

まずプロモーター型は、社交的で、人と活気のある話をすることを好む。場を盛り上げるのがうまく、変化や混乱に強い。順応性も高い。彼らは、自分のアイデアを出すことを重視する。プロモーター型の上司や部下とコミュニケーションを交わすときには「どんなことをやりたいか?」などと質問し、たくさんのアイデアを引き出すようにするとやる気を高めることができる。

仕事を任せるときも、細かいことに口を出さず任せるほうがうまくいく。ただ、計画性に乏しく、たくさんのことに一度に手をつけ、優先順位を見失いがちなので、「いま一番大切なのは何?」といった質問が効果的である。

プロモーター型の正反対とされるのがアナライザー型だ。彼らは行動を起こす際に慎重で、物事を始めるときにはまずデータを集め、分析する。計画をたてるのが好きで、粘り強く、最後までやり遂げる力がある。一方、失敗することに対する恐れが強く、変化や混乱に弱い。

アナライザー型に、「すぐに」と要求したり、こちらがあせったところみせたりするのは禁物だ。仕事を任せるときには、なぜその仕事が必要なのかといった背景について伝える必要がある。また、このタイプは感情表現が苦手なので、外見だけで判断してはいけない。表面はクールでも、内側では興味をそそられていることがある。

go Pagetop

「「部下を知る」に終わりはない」

2006/02/01

○思い込まずに常に情報収集

相手を変えることもでなくても、コミュニケーションを変えることができる。コミュニケーションのタイプを知ることは、そのためのひとつの手段である。しかし、コミュニケーションを変える方法はそれだけではない。相手についての情報をもてばもつほど、コミュニケーションのとり方の選択肢が増える。

あなたは、部下について何を知っているだろうか。年齢やどこの大学を卒業したか、どこに住んでいるか、家族構成など、知っていることはいくつもあるかもしれない。では、彼らがどんな価値観をもっているか、ものごとを判断するときに何を重視しているか、上司に自分について何を知っておいてほしいと思っているか、将来の個人的なビジョンなどについては、どうだろうか。

上記に述べたような情報を知っていることが重要だというわけではない。ただ、私たちは、ともすると自分のフィルターを通して相手を観察し、「この人は、こういう人だ」と決めてしまうものである。しかし、コミュニケーションにおいて「知っている」と思い込んでしまうことは、危険なことだ。「知っている」と思ったとたん、それ以上、コミュニケーションを交わす必要がなくなるからだ。組織において、部下の能力や可能性を引き出したいと考えるのであれば、「知っている」というところから離れて、相手と関わることが重要だ。部下についてのデータベースを自分の中につくっていくようなつもりで関わっていく。

とはいっても、無造作に情報を集めても意味がない。彼らのスキル、もっているタスク、健康状態や趣味などの個人的な情報、ビジョンなど、だいたい4つのカテゴリーに分けて、情報を蓄積するといいだろう。面談などで、こうしたことについて質問してもいいが、普段何げなく交わす会話からも、また、部下の行動を観察することからも情報は増えていく。また、部下についてのデータベースはつくってしまったら終わりというものではない。彼らは、毎日成長するし、健康状態も常に一定ではない。データベースの厚みを増やすことを意識し、そしてまたそれを更新していく。それだけで、自分の中に部下に対する関心が高まっていくのを感じるだろう。

itoh.comトップ > 雑誌などへの執筆、連載誌 > 日経産業新聞『部長講座』

go Pagetop