今回、本を紹介してくださるのは安藤潔さん。安藤さんは、内科のお医者さん。伊藤にとっては、長いおつきあいの友人で、本や音楽などさまざまな分野について情報を交換し合う間柄です。
『 こころの対話 』(安藤潔さん)
多くの著作の中から迷いながらも、私は「こころの対話」を選びました。奥付を見ると1995年2月10日、講談社からの発行です。
この本のメッセージは、それまでのディスカヴァーからの個性的な本たちのエッセンスを体系立てて紹介し、一般の読者に広く理解できるように組み立てられているように思います。
コーチングがこれだけ広く受け入れられるようになった現在からは想像が難しいかも知れませんが、この本が発行された頃には「コミュニケーション」の価値に目を向ける人たちはごくごく少数派だったのです。私も伊藤さんのセミナーで何かの体験にぶつかったことは確かなのですが、それを表す言葉がうまくみつからず、周りの人たちに伝えられないもどかしさを抱えていました。
この本の中で、私の体験が何だったのかに思い当たる言葉に何回も出会いました。
私自身、この本は繰り返し読みましたし、周囲の人に勧め、授業でも教科書として使いました。
「自分について知ってみたい。自分はどこから来て、どこへ行こうとしているのか。自分にとって生きがいとは何か。自分にとっての幸福とは何なのか。どうして、いつも静かで平和な気持ちでいることができないのだろうか。ときどきわけもなく不安になるのは、なぜなんだろう。自分にとっていちばんいい生き方とはどういうものなんだろう・・・。」
このようなとても普遍的な問いかけでこの本は始まり、ソートン・ワイルダーの「わが街」のエミリーの台詞で閉じられます。エミリーの視点を思い出すとき、「いまここ」の情景が急転して鮮やかな輪郭をとりもどします。この魔法の視点は私の大切な宝物です。