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　　　　　　　　　　　　Vol.271 　 Aug. 11, 2006
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　　●　伊藤守の『長生きしようよ』　　夏が来ると思い出す


　　　私の母は、５歳で実の母親を亡くした。
　　　１５歳で父親を軍隊に取られた。父親は戦死した。

　　　終戦のときはまだ満州にいて、引き上げてきた。
　　　自分の父親の実家に身を寄せたが、大切にされたとは思えない。

　　　彼女は一人で看護婦になる勉強をして、
　　　病院で働くようになった。

　　　その頃、父と知り合い、結婚する。

　　　父の事業は好調だったが、
　　　兄弟３人で好き勝手にやっているうちに、
　　　やがて左前になってしまう。

　　　嫁姑の確執もあった。

　　　父が再起をかけているあいだ、母がきりもりをした。
　　　やがて、父の仕事が軌道に乗った頃、母は目を患う。

　　　お見舞いに行ったら、
　　　いつもは気丈な母が横になっていて、
　　　椅子に座ろうとする私に、ベッドに座れと言う。

　　　ベッドに座ったら、母は私の手を取った。
　　　それで、急に手を握り締めるから、私は泣いてしまった。


　　　母は、今年で７７歳になる。
　　　戦争を経験した人はみんなそうなのかもしれないが、
　　　そう簡単な人生ではなかったと思う。

　　　それでも、母は気丈だ。
　　　同情なんかさせない。

　　　そういうところが好きだ。


　　　あるとき、父が会社に出かけるときに
　　
　　「毎日、ご苦労さま」と母が言うと、
　　「そういうことを言うな」と父。

　　「それじゃなんて言えばいいのよ」
　　「とっとと行って、稼いでこい。こう言ってくれ」
　　「わかった。とっとと行って、稼いでこい」
　　「うん、行って来る」

　　　と、嬉しそうな父。


　　　変な会話だけど、
　　　父の気もちがよくわかる、今日この頃でした。


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　　今週のitoh.com　　　・*・*・　今週更新のコンテンツ　・*・*・

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　　● [ エディターズ・ルーム ]　８月１１日更新！
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　　　今週のお題は「夏といえば」。

　　　梅雨がようやく明けたのに、なんとなく涼しい８月？　
　　　そう思ったのも束の間、うだるような暑さがやってきました。
　　　さて、あなたにとって、夏といえば？


　　● [ 読字障害について ]　８月１１日更新！
　　　 http://www.itoh.com/ld/index.html

　　　今月は、読字障害の子どもをサポートする
　　　先生とご両親のための本をご紹介します。


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