Editor's Room

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2017年11月10日(金) 「清廉」

サラエヴォにいる。会社を辞めて、厭世的自分探しの一人旅ではない。それでも、きれいさっぱり仕事のことを忘れていたのに、本稿をどうするのだと催促がくるのである。無粋ここに極まる。確かにサラエヴォで書くとは言ったが、私が有言不実行の男であることはこの12年間の関わりの中で、存分に思い知らしめたはずだ。忖度。忖度せよ。今回のお題が「忖度」であったならば、ここで大団円。早朝のサラエヴォにて二度寝を貪れるのだが、事前に「清廉」というお題がしてしまったがゆえに、文章は続けなければならない。僅少の読者諸氏はなかなかダラダラした文章に読み手は辟易としているだろうが、一度決めたお題に対しては、読者無視の清廉な態度で臨まなければならない。これぞ12年間で築き上げたエディターズルームブランド。さて、1時間遅れで列車から降り立ったセルビアのベオグラード。おかげでこの日の目的地であるボスニア・ヘルツェゴビナのヴィシェグラードという街に直通するバスに間に合わなかった。仕方なしに国境に近い街ウジツェまでバスで行き、乗り換えることにする。バスは13時過ぎに着き、インターネットで調べに調べて存在を確信していた15時のバスに乗れば大丈夫と、自信満々声高らかにバスのチケット売り場で「プリーズ、ギブミーチケット、ヴィシェグラード、フィフティーンオクロック」と流暢な英語で捲くしたてれば、「ノー」とつれない返事。その後は筆談となり、15:00のバスは存在せず次のバスは21:30だという。人生で初めて「オーマイガー」という単語を口にした記念すべき瞬間だった。何もなさそうな町に、そしてスーツケースを預ける場所すらない町に8時間も何をしていろというのだ。太川さんと蛭子さんの「路線バスの旅」でないのだ。呆然としていると、これまでの私にはなかった選択肢。タクシーで国境越えしたらいいのでは?だが、目的地まで国境を越えて、ここから75キロほど。安く見積もって100ユーロだろうか。8時間の時間を100ユーロで買うのに躊躇するのは、己の人としての価値がいかほどであるかという自己認識の高さの証明でもある。カモネギとばかりにタクシーの運転手が話しかけてきたので、「お高いんでしょ?」と聞いてみると、3000ディナール、25ユーロで行くよという天啓。ホイホイとタクシーに乗ってしまう。しかし海外のタクシーは必ずぼったくるのではないか。乗ってしまって後戻りできないが、山の中にある国境を越えたら、道を外れて250ユーロだと脅されたりしないかと恐れおののく。だが、私の心配をよそに、ちゃんとメーターを倒してくれて、国境でのパスポートコントロールもサポートしてくれた。そして無事にヴィシェグラードに着いたら、3500ディナールほどにメーターはなっていたが、25ユーロでいいよと、まさに清廉としたセルビアのタクシーの運転手であったのだ。ただセルビア国内では山道を時速100キロで爆走する交通法規的には全く清廉でないのである。面白いことに、運転手にとっては外国となるボスニア・ヘルツェゴビナに入った途端、制限速度遵守の清廉なドライバーに早変わりしたのだが。(HK)

今日は夜に、15年前の先輩と会います。会ってみようと思ったときは、仕事頼めるかな、おいしいもの食べるいい機会だな、とか、いろいろ思ったりしてアポしてみました。でも今朝起きると、先輩に会うのが楽しみな自分に気づきました。純粋に会うことが楽しみな感じの自分は「清廉」な感じがするなーとひとり悦に浸っています。このお題とのマッチング感は、サラエヴォにいる人以外の人が考えてくれたお陰かもしれません。(T)

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