Editor's Room

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2016年11月25日(金) 「季節外れ」

すぐに頭に血がのぼるせいか、妻は家計を圧迫するほどのアイス好きである。メールアドレスを「私ほどのアイス好きはいない」からと「アイスの女王」などとしているほどである。てっきり己の冷血さを表現しているのかと早合点していた。なるほど、日本の美しさ、つまり四季を微塵に感じさせず、くる年からゆく年まで常にアイスをむさぼり食っている。アイスを季語としている俳人は妻のことを忌み嫌うに違いない。記憶も定かではない遠い昔のこと。妻は大学の卒業旅行で、柄にもなく音楽の都ウィーンへ行ったはいいが、すれ違った人に「クレイジージャップ」と嘲られたという。酷いと憤っていたが、真冬のウィーンの街頭で嬉々とアイスに食らいついていたからである。ジャップという表現はここでは不問とし、氷点下の厳寒の中でアイスを食らいつくその姿は、私が見てもクレイジーであったと断言できる。そのことを妻に諫言しようものなら、頭に血がのぼり、また冷凍庫からアイスを取り出すに違いない。(HK)

時は平安時代中期。源満仲がお告げで『射った矢の落ちたところに居城せよ』という。放たれた矢の先には「九頭の龍」。無数の矢が的を得たが、矢の落ちたところはなかなか割り出せず、探索に最も功労の多かった男にこの三本矢の家紋は与えられたのだという。その後、明治時代にそこで湧き出した鉱泉水が「それ」の由来となっているらしい。冷える体を少しでもコーヒーで暖めようと向かった自販機で、一抹の郷愁を感じさせる「それ」は、前触れもなく目に飛び込んできた。三ツ矢サイダーのロゴである。しんしんと粉雪の降り注ぐ中、さらに体を冷やすことになるが、なんとも言えない爽快感と己への戒めを含めた焦燥感が湧いてきた。冬なのに夏を口にするとこんなに美味と感じるのはなぜだろう。ラムネにアイスクリームに冷やし中華。「季節外れだけど何かいいよね」と日本人がいうのは何も食べ物に限った話ではない。正月が終わればバレンタイン、お盆が終わればハロウィーン、その翌日からはジングルベルである。あっぱれ季節外れのオンパレード。54年ぶりに11月の積雪だなんて騒ぐニュースを見ながら外人同僚たちが「俺の故郷は既に1メートル雪が積もってるよ」「故郷に帰ってきたみたいだ」「クリスマスも近いね」と感慨深げ。それより前に突っ込むことあるだろと思いながらも、南半球ではこの時期サンタクロースがサーフィンに興じるというから、もはや我々は何を基準に季節を判断して良いのか分からなくなる。ひとつ言えることとして、冬の三ツ矢サイダーは味覚だけではなく、巡り巡る季節に想いを馳せる心も満たしてくれるということであった。終わりよければ全てよし。あまりの寒さに身震いしながら鳥肌が立ち、やはり次回はサイダーではなくコーンポタージュにしようと思った次第である。皆様、よい週末を。(N)

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