Editor's Room

itoh.com の舞台ウラをリアルタイムにご報告します。

2015年10月23日(金) 「工事」

突如オフィス内に流れるX JAPANの「紅」。やや強面の工事の方の電話から流れてきた着うたであった。会議室増設のため、休日出勤して工事に立ち会った際の風景である。いままで私のデスクの背後は壁であり、シャングリラであった。仕事でのつらいこと、きついこと、面倒くさいことを癒してくれた背後の壁。会社のブランディングのためとはいえ、大画面を使って社員のプロフィール写真からシワやくすみをとる傍目には怪しさと気色悪さと気持ち悪さ溢れる作業を、唯一暖かく見守ってくれていた背後の壁。Toshlの甲高い歌声とともに、私のシャングリラは蹂躙されていく。涙の工事である。話しは変わり、時も場所もはるか彼方に飛んで、ここは数百年前の中央アジアはウルゲンチ。アムダリヤ川のたもとで繁栄を極めていたこの都市を都としていたホラズム・シャー朝のシャーはこうつぶやいたという。背後を流れるこの川の水が枯れた時、この街は滅びると。後の時代、チンギス・ハンによる人類史上類をないほどの大虐殺からも立ち直り、豊かさを取り戻したウルゲンチだったが、アムダリヤ川の流れが北に遷移してしまうとシャーの言葉通り衰退し、ついには街自体打ち捨てられてしまったという。シャーの言葉は私のでっち上げであるが、アムダリヤ川の河道の変化による街の衰退は史実である。現代の東京に戻ると、工事は終わっており、私の背後には一つのデスク島ができるほどのスペースと会議室が生まれてしまった。人通りは激しくなった。だが、紅に染まったこの俺を慰める奴はもういないのである。(HK)

私の自宅のある通りでは、新しい家がどんどん建築されている。空き地だった角の土地も売り出されたらすぐに買い手が付き、数カ月後には清水さん(仮名)のお宅になった。その向かいは、家を解体中で、まもなく新しい家の建築に入るらしい。大通りに面した土地も、最近、大きな更地になった。きっと売りに出されて、すぐに家が建てられるのだろう。建築作業以外に、ガス工事、水道工事、電話工事、電気工事などが行われる。人が生活できる空間ができるまでは、本当にいろいろな工程があるんだなと思うが、工事の人たちがいると、シャイな私は家から出るのがイヤになる。我が家でもないのに、すごく元気よく挨拶するのもおかしいし、無視して通るのも失礼である。会釈程度がいいのかなと思うが、小心者なので相手のトーンに合わせなければという気持ちが強い。そう思うと、工事現場の前を通るのもなかなかのプレッシャーになってくる。工事をしている人にとっては、近所の人が通ることなんてどうでもいいことだとわかっていても、変な圧を感じる小心さを、なんとか治せないものだろうか。(M)

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