Editor's Room

itoh.com の舞台ウラをリアルタイムにご報告します。

2006年3月23日(木) 「忘れられないあの人」

忘れられないあの人ということで、いろいろと考えました。今回はときどき意味もなく思い出す人について書いてみたいと思います。アメリカで学校に行っていたときのことです。住んでいるところからその学校まではなんと2時間もかかったため、毎日、とても早起きしていました。アメリカに慣れていなかった私が、バスを何本も乗り継いで、列車(電車ではない)に乗って、学校に通っていました。毎朝その列車の中で会う女性がいました。彼女の名前はアニタ。黒人のシングルマザーでした。あまり自分のことを話さない私ですが、彼女にはなぜかいろんなことを話しました。しかもつたない英語で。とても暖かくパワフルな女性で、私は彼女に毎朝会うのを楽しみにしていました。しばらくして私は家の近くの学校へと変わることになりました。しかしその列車に乗る最後の日に、私はアニタに会うことができませんでした。そして彼女とは2度と会うことはありませんでした。今でもときどき思い出します。彼女はあの列車に今でも乗っているのだろうか、ほんの数ヶ月、一緒に列車に乗っていた日本人のことを覚えているのだろうかと。もしもう一度会うことができたら、本当にあの時はありがとうと伝えたいです。(M)

「忘れられないあの人」ということで、いろいろ思い返してみるのだが、センチメンタルな気もちになるような人がいない。なぜか、一緒に研修に参加したやたら顔の大きい占い師のことばかり思い出す。別に甘い思い出である必要はないのだが、そういう人がいないかと、ずっと考えていて、ひとり思い出した。数年前、帰宅途中の電車の中でのこと。酔っ払いが騒いで、乗客に絡み始めた。このままケンカが始まったらいやだなあと思っていたら、「おじさん、おじさん、まあ、いいじゃないの」と軽ーい感じで声をかけて、仲裁に入った男性がいた。ちょっとほっとして、そちらに目をやると、そこにいたのは、涼しげな目をしたとてもすてきな男性。ケンカの仲裁に入るという勇気。それも事を荒立てないように軽い感じで、という機転。おまけにハンサム。思わず目を奪われてしまった。駅に着いて電車を降りると、その彼も降車。でもすぐに見失ってしまった。そうしたらなんと、私のマンション前の横断歩道に彼が立っていたのだ。「これは運命だ!」と思ったが、横断歩道を渡った後は、私と彼は違う方向に。その後一度だけ、朝の交差点でまた彼を見かけた。でもそれっきり。どうも運命の人じゃなかったらしい。残念です。(C)

今でも頻繁に会っているのでタイトルとかみ合わないかもしれないが、どう考えても「おっさん」が私にとって「忘れられないあの人」というか、「どうしても忘れることのできそうにない奴」になること必至なので、彼について書くこととする。彼との出会いは、大学2年生のときだった。私の学部は1年次は学科・専攻分け隔てなく教養課程のみを行い、2年になってから進みたい各学科・専攻に分かれるのだが、私が選んだ1学年30人くらいしかいないマニアックな東洋史専攻に「おっさん」がいたのだ。チリチリの天然パーマに、ボールといってもいいぐらいの丸くて大きい頭、そしてふくよかな腹。常に半笑いで、杉良太郎もビックリの流し目。「お酒を飲むのも文化を学ぶことだ」と講義中に教授がトルコのお酒を試飲させた際、私たちは場をわきまえて一口飲む程度だったのに、一人お代わりまでして顔が真っ赤になるまで飲み続ける(5杯は飲んだはずだ)破天荒な行動。さらに一回成績不振で中退したのに、悔しいからと土方のアルバイトを数年やって、同じ大学の同じ学部を受けなおして、この場にいるという経歴。そして周りとは約10歳違う年齢・・・得体の知れない雰囲気ををふんだんに醸し出し、数ヶ月間誰も話しかけられなかった。しかしなぜか1年が経つ頃には徐々に「おっさん」の存在が大きくなってきた。年長者として皆から信頼されている、というわけではなく、どうなっているのかわからないうちに輪の中心にいるようになったのだ。なぜかどうしてみんな彼に惹かれるようになったのである。大学院に進んだ今、10歳以上年下に真剣な顔で「おまえ、本気で将来どうする気だよ」と心配される男にである。自分の弱さをさらけ出し見栄を張らず、30 代後半とは思えないほど無邪気で子どもっぽく、全く表裏がない。人生に対しての決定力がない(この点は私と似ている)。そういうことが彼を知る多くの人に安らぎを与えるのだろうか。いや、理由なんてどうだっていいだろう。結局「おっさん」が、その後ゼミを束ね、後輩から慕われ、そして私の最も親しい友人の一人になったのだから。とにかく皆がわけのわからないうちに「おっさん」のカリスマ性にやられているのだ。私も含めて「おっさん」のとりこだ、仕方のないことに。(HK)

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