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コミュニケーションQ&A
バックナンバー No.1-20 No.21-40 No.41-60 No.61-80 No.81-100 No.101-120

毎週、コミュニケーションラボラトリーの中の Q&A から抜粋してご紹介します。

Q

自分の一番言いたいこと、伝えたいことが言葉にならないもどかしさを感じます。2番目に言いたいことやその周辺のことは表現できるんですが。

A

そういうものですよね。話すと少し長くなりますけど、以前僕の父親が心臓発作を起こしてしまい、どうしようかと思った時に、友達に言われて両親を東京に呼んだんです。そして準備していなかったのに僕の自宅で突然同居生活が始まったんです。もう参っちゃいましたね。突然の同居ですから。

父は100メートルぐらい歩くとニトログリセリンを舐めるんですよ、血管を開くために。危ないね、なんて言いながら。友人がやっている病院で、血管内の重金属を溶かすための点滴を毎日打ったんです。日本で初めてやったんです。勇気あるでしょう? 最初は、こんなの打っちゃって本当にいいんだろうか、と思って恐かったですよ。でも自分の親だからいいか、なんて思ってバンバン打ってたわけです。

ちょうどテレビで27時間テレビというのをやっていた頃なんですが、その中で小津安二郎さんの『東京物語』という映画が放送されたんです。尾道かどこかから老夫婦が出てきて、東京に住んでる子供たちの家を訪ねて歩くんだけど、あまり思ったように待遇されない話。僕はその映画を家で奥さんと一緒に見ていました。松たか子さんが出ていて、宇津井健さんがお父さんの役で、八千草薫さんがお母さんの役で、その他いろいろな俳優が出てる。それを見た。

まさに僕の家も『東京物語』になっていたわけです。『東京物語』実践中で『東京物語』を見るというのは非常に複雑な思いでした。宇津井健さんが言うんです、「それぞれ事情があるんだ」と。あまり歓待されなかったんだけれど、自分たちの子供のことを悪く言わない。でも最後に東京駅でこういう風に言うんですよ、「もっと喜んでくれると思ったのに」と。自分たちが尾道から訪ねて行って帰って、それからお母さんが亡くなってしまって、いろんなドラマが起こるんです。

心臓がまずいということで両親が来る。こっちはもう参ってるところに突然の同居。片一方はいつ死ぬか分からない。母親も高血圧で、僕も血圧を測ってみたら180とか190あった。お前の方が危ない、って感じで、二人で一緒に並んで点滴打ってる。そういう時にそういうテレビを見ていて、「よく来たね、大丈夫?」とか、優しい言葉をかけようかな、と思った。人には言うんですよ、もうちょっと優しい言葉かけたら、とか。父親本人は混乱してますから、ムスッとしてるんです。それを見て、やっぱり家の中で何か気遣わせてるのかな、それも嫌だな、とか、何か陰にこもる感じが自分の中にもあるんです。人には言うんですよ、そういう時にひとことやさしい言葉をかければ、って。僕は嫌ですね。

七夕があったんです。七夕に、うちの子供なんてろくなもんじゃないから、ガンダムよこせとか、いろいろ脅しの短冊を山のように書いた。馬鹿なやつだなと思った。でも短冊の中に、一つこういうのがあったんです。「おじいちゃんとおばあちゃんの病気が良くなっても、東京にずっといますように」って。俺は言わないけど、子供は言うか、と思った。仕方ないからガンダム買いましたけどね。

でも言いたいことって、そういうことでしょう? そういうことが言えないってことでしょう? 言えないんです。言えなくても仕方がない。機会があったら言うといいかもしれないけど。でも気持ちはあるんでしょう? そういう「ありがとう」とか「嬉しいな」とか「居てくれて良かったな」とか、気持ちはあるんでしょう? やっぱりどこかで言った方がいいですよ。


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