人があなたに話をしてくる時、問題を解決して欲しいと思って話しかけてくるように誤解するんですけど、実は、だた話を聞いて欲しいだけなんですね。あらゆる人が良質のブレイン・ストームを望んでいます。つまり自分でいろいろしゃべりたい。そしてそれは、人にしゃべっているようには見えるけども、実は自分に向かってもしゃべってる。それは、すべての生き物は、内側の情報を一回外に出さないと、認識できないという構造があるからなんです。つまり人にしゃべって初めて自分が何を思っているのか気がつくのが、生き物の、特に人間の特徴なんです。誰か話す相手がいなかったら、自分が何を思っているかがわからないんですよ。
良質のブレイン・ストームを起こすと人は有能になります。基本的に、聞く方は問題解決もしないし忠告もしない。忠告が役に立つなら自分にしますよ。ほとんど聞かないですね、他人の忠告なんか。さっきまで思ってたのに、なんて感じですからね。「思ったことをはっきり言ってみろ」なんていうのは、およそ人にやさしくない人の言うセリフなんです。人は、話していて、「あ、こう思っていたんだ」というのに気がつく、というほうが正確なんです。
ある会社の経営者が、時々僕のところに来て一時間くらい話すんです。こちらはコンサルティングもしますから資料を用意して待っている。僕の有能なパートナーの秘書の方が、よくスケジュール忘れるんですね、それである時、聞いてないのにその人が来ちゃった。どうしようと思ったんですけど、仕方ないから僕の部屋にご案内して「どうぞなんでも最近思ってらっしゃることをお話し下さい」とコーヒーを出した。彼は話すんですね、いろんなことをぺらぺらと。どこまでしゃべっても満足しない人なんです。それで、こっちは民謡の合いの手みたいに「それで?」「それから?」「ヨイショ」なんて言う。彼は、聞いてもいないのに、自分の未来の夢はこうなんだとか、ああなんだとかしゃべる。一時間以上しゃべった後に彼はこう言いましたよ、「伊藤さん、今日は本当にいい話うかがいました」って。
アンドリュー・ワイルというお医者さんは、ある時カウンセリングをしていて自分が煮詰まっていることに気がついた。人に相談したいな、と思った。でも同業者には相談できない。信用できないから。奥さんに話せるか? 奥さんに言いたいことがあるんだから、話せない。そこに犬が入ってきた。犬に話したんですって、いろいろ。犬はいいそうですよ。そんなこと思ってたんだ、ふぅ〜ん、なんて言わないそうですから。誰かにも言わないですしね、犬は。言いたいだろうけど「ワン!」しか言えないから。一時間以上しゃべると、すごく晴れやかな気持ちになる。
つまり、その人が作り出してる問題ですから、解決できるのはその人だけなんですね。側にいる人ができるのは、視点を変えることだけです。例えば、自分ならこう思うとか、こう考える、っていうのはできるけど、代わりに解決するなんてことはできない。そうなってくると、その人は問題を解決していくために、必要とされるような質問というのを創り出していくことができます。例えば、「前にそういう問題にぶつかったことはないか?」とか、「そういう問題を既に解決したことのある人を知らないか?」「過去にそういう問題にぶつかった時、君はどうしたか?」「どういう解決の方法があったか?」「君を支えてるネットワークはどれくらいあるか?」とか、それから、もし力が不足しているようだったら、「最近睡眠は足りてるか?」「何か他にストレスの原因が無いか?」とか、たくさん色んな質問をして視点を広げて、解決の可能性というのを探していきます。問題が問題なのは、何が問題かがはっきりしてないことです。問題が何であるかがはっきりしてしまえば、人は有能です。それは、太ってる人がヘルスメーターに乗った方がいい、というのというのと同じロジックです。自分が何をしているのか、何を思っているのか、というのがはっきりしてしまえば、人は、すごく行動ができるようになる。人が行動ができないのは、自分がどこにいて何をしようとしているのか、よく見えてないだけだと思うんです。解決策とか、お前こうした方がいいとかああした方がいいとか、こういうのは余計なお世話です。これをやると、混乱させていくだけですね。多くの相談を受ける人たちは、俺のお陰で良くなっただろ、って言いたいわけですよ。で、そういうのに付合っちゃうと、もう大変ですから。怖くて人に相談もできなくなっちゃうでしょ? |