「上手に」というのを抜けば大丈夫です。僕たちの人生を苦しめているのは「上手に」「ちゃんと」とか「しっかり」「真面目に」「一生懸命に」とか。つけなければもうばっちり。聞くけど、結婚式での主賓の挨拶と仲人の挨拶、好き?何か印象に残ったの聞いたことある?
だけど、新郎新婦の両家を代表して父親が挨拶する習慣、あれはしびれますね。時々お父さん、台詞飛ばしちゃう時あるじゃない。「アウアウ」になるの。以前僕の秘書をしてくれていた人の結婚式で、彼女のお父さんもセリフが飛んじゃった。言うこと忘れちゃってね。あーどうなるんだと思って2、3秒の沈黙の時間ができた。そうしたらお父さん、「まきこー」って呼ぶんですよ。「まきこ、お嫁に行っちゃうんだねえ」って。それでおしまいですよ。でもみんなその結婚式、二度と忘れないね。
本当の気持ちを言おうなんて思ったら「アウアウ」になるの決まってるじゃないですか。すらすらいったら全部うそ。こうやって喋ってる俺はどうなるのって問題ありますけど(笑い)。ある程度用意されたことはぺらぺら喋るんです。だけど本心言え、なんて言われたら「アウアウ」になるんです。そういうものです。そこに突入するかどうかで人生の方向性は随分変わってくる。
「アウアウ」に何回も出会ってると人に優しくなりますよね。待ってられるから。人間って本当に思ったこと言い合う時って「アウアウ」しちゃうんだなあって思います。その「アウアウ」が怖くて、みんな逃げてますけど、その中に入り込んでしまうと、人に対する理解は次元が違ってくると思いますよ。
生身の人間が本当に言いたいことや思ってることを外に出してくるなんてめったに触れることはない。本当にそういう機会に触れることがないから、いろんな事件が起こると思うんです。本当の気持ちとかって、そういうところで起こってるんです。それがみんな怖いもんだから、遠まわしにしてるけど、やっぱり踏み込んでいかないと、多くの人はうまく人に対する怯えから解放されない。本心聞くってのはそういうことですね。すらすらは来ない。ぺらぺらなんかは言えない。もしかすると言葉にもならないかも知れない。そういうものですよ。 |